バス業界が抱えるアナログ作業の課題と利用者の利便性向上を「スマートバス停」が解決。災害対策、自治体情報発信も見据えるNECネクサソリューションズの挑戦
バス業界では、人材不足が深刻であり2024年問題がそれに拍車をかけているなか、喫緊の課題として働き方改革の推進が求められています。さらに地方では高齢化問題が深刻化しており、高齢者による運転免許証の自主返納も進んでいることから、地域の重要な「足」となる路線バスのサービス維持がますます重要になっています。また、インバウンド需要の高まりを受け、バス業界でもよりいっそう利便性の向上に注力しています。
これらの社会問題やバス事業者が抱える課題を解決する手段の一つが「スマートバス停」です。NECネクサソリューションズ株式会社(以下、NECネクサソリューションズ)では、かねてよりバス事業者向けソリューションを開発、提供しており、利用客に見やすい時刻表情報、バスの現在地や遅延情報を発信する「スマートバス停」の提供を行っています。本ストーリーでは、スマートバス停を提案する営業担当者・津田と、システム開発に深く関わるSE・古谷の想いを紹介します。
■担当営業・SEの紹介
写真左:
流通・サービスソリューション統括部
第二営業グループ 主任
津田 勝
入社35年のベテランで、長くバス事業者向けソリューションの営業担当として活躍。バス事業者の生の声に耳を傾けるとともに、そこでヒアリングした要望をシステムエンジニアにエスカレーションすることで、より利便性の高いバスソリューションの提供をし続けている。
写真右:
サービスSI統括部
第三システムグループ
古谷 慶次郎
エンジニアとしてバス事業者向けソリューションの開発に携わり、これまで「バス営業所勤務管理システム」「バスナビゲーションシステム」の開発を手掛けてきた。現在ではスマートバス停のシステム開発を担当している。
■NECネクサソリューションズの紹介
津田:当社は、企業や団体、地域社会が抱えているさまざまな課題を解決すべく、ITソリューションを提供するサービスインテグレーターです。
主力事業の一つとして、40年以上にわたりバス事業者向けのトータルシステムの開発、提供を手掛けています。具体的には「バスダイヤ編成支援システム」「バス運賃三角表作成支援システム」「バス営業所勤務管理システム」「バスナビゲーションシステム」など、さまざまなソリューションを取り揃え、バス事業者をサポートしてきました。
■スマートバス停とは
津田:そんなバスソリューションのなかで、近年導入数を増やしているのが「スマートバス停」です。スマートバス停は、デジタルサイネージに時刻表を表示して利用客に見やすい時刻表情報を提供するほか、バスの現在地や遅延情報をリアルタイムに発信します。これにより、バス事業者が本部から時刻表データを配信することで遠隔での時刻表の変更を可能にします。
▲スマートバス停イメージ
なお、スマートバス停の提供は、「IoTソリューション」「ビジネスソリューション」「サービスビジネス」の3つの事業を柱にDX化・デジタル経営を支援する株式会社YEデジタル(以下、YEデジタル)と協業することで実現しています。YEデジタルのハードウェア製品、システム、サービス等を利用し、各バス事業者の要望に合わせて当社が掲示物を配信しています。※YEデジタルはスマートバス停の特許を取得しています。
■営業 津田:スマートバス停をお客様へ提供するに至るまで
- 多くのバス事業者が悩みを抱える時刻表の貼り替え業務
津田:当社が長年手掛けているバスダイヤ編成支援サービスは、全国の多くのバス事業者にご利用いただいています。日ごろからさまざまなバス事業者とお話しする機会があるのですが、そのなかで最も多く耳にする困り事として「時刻表の貼り替え業務」があります。
ダイヤ改正時には、バスの運行時間外に社員が総出でバス停を回って紙の時刻表を貼り替えているのが現状です。そういった人海戦術的なアナログ業務は、働き方改革の推進が求められる昨今の社会的観点から見ればマッチしていないでしょう。直近では新型コロナウイルス感染症の影響により、適宜バス運行を増減させるなどダイヤ改正を行う頻度が高まっていました。
この喫緊の課題を解決するため、ダイヤ編成支援サービスを提供している企業として何かお手伝いできることはないか、と自問自答する日々でした。
- 解決策を模索するなか、スマートバス停に確信。熱意が伝わりYEデジタルのパートナーに
津田:バス停は基本的に屋外にあります。そのため、屋外での利用を大前提に、メンテナンスの負担が少なく、なおかつ安価に導入できるという条件を満たすサービスを見つけるのは、容易なことではありませんでした。2018年から1年以上にわたって多くのベンダーに相談を持ち掛け、私自身も解決策につながるハードウェアや情報配信サービスの情報を集めましたが、条件に合うものに巡り合うことができずにいました。
課題解決策を模索しているさなか、「電子ペーパーが利用できるのでは?」と考えて大手企業に相談を持ち掛けたこともありました。しかし、課題解決につながる可能性は感じられたものの、電子ペーパー本体のコストが高額であったことから、バス事業者に導入してもらうにはハードルが高いと言わざるを得ませんでした。
そんな日々を過ごしていたなか、ひょんなことから「スマートバス停」に関するニュースが目に留まりました。このニュースを見たとき、直感的にスマートバス停を活用すれば、高負荷な時刻表の貼り替え業務を改善することができると思いました。
さっそく期待に胸を膨らませ、スマートバス停の開発元であるYEデジタルに問い合わせて製品の詳細を伺いました。その結果、スマートバス停はまさに当社が求めていた製品だ、という確信に変わりました。
そして、YEデジタルとの協業を目指し、打ち合わせを重ねました。しかし、話し合いは思いのほか難航しました。というのも、すでに他方から協業が提案されていたようで、当社はやや出遅れている状況だったからです。そんな状況のなか、当社としての使命を真摯に伝え続けました。その結果、長年にわたりバス事業者を支援してきた実績が評価され、スマートバス停のパートナーに選定いただきました。
この決定を受けて、さらに具体的な提案へと進んでいきました。単に製品の機能を紹介するのではなく、利用者により便利に使っていただくために、何ができるのか。システムエンジニアを含めた社内関係者とともに、検討の日々が始まりました。
■SE 古谷:スマートバス停の開発秘話
- 利用者とバス事業者、双方のニーズを満たす開発へのこだわり
古谷:スマートバス停の開発において最適なサービスを提供するために、バス事業者に話を伺ってみると、事業者ごとに配信情報のレイアウトや表示形式に相当の“こだわり”があることがわかりました。
そのこだわりの理由には、バス利用者の声があります。バス事業者はスマートバス停の導入によって業務負荷の軽減を実現したいと考えているのはもちろんですが、それ以上にバス利用者の利便性を向上し、喜んでいただきたいと考えていることがわかりました。
当社はスマートバス停のなかで、情報配信機能(多目的情報配信サービス)を提供しています。同サービスを提供していくうえで、バス事業者のこだわりをITで実現することが当社の使命であると考えました。
たとえば、現在時間から先2時間の時間帯の時刻表を他より大きく見やすく表示、お年寄りやお子様でも見やすい色使いと配置、観光客向けに多言語での表記など、さまざまなニーズを満たせるよう開発しました。特に時刻表の情報配置は、各バス事業者で最適な配置が異なってくるため、綿密に話し合って決めていきます。
▲先2時間の時間帯の時刻表を大きく表示
システムエンジニアとして、単にバス事業者のリクエストに応えるのでなく、技術的な裏付けや情報発信機能としての最適化の知見や検証結果をもって、一番良い形でバス事業者のリクエストを実現することが重要と考えています。屋外設置という前提やメンテナンス負担を小さくするといった必須条件があるなかで、利便性を実現する利用者的なアイデアも忘れてはならないと考えます。
■通信環境が整わない事態でもサービスを滞りなく提供するための工夫
古谷:レイアウト以外に工夫、対応したことは「BCP対策」です。公共性が高いバス停ですから、スマートバス停による情報発信が災害や事故で滞ることは極力避けなければなりません。
スマートバス停は、内蔵されているLTEおよび通信機器によって時刻表データを受信し、更新する仕組みになっています。通信環境も常に良好とは限らず、何らかの原因によってデータ通信が途絶した場合に時刻表が更新されない事態になる恐れは否めません。そのため、そういった有事の際にも対処できるシステム仕様が必要となります。
その仕様の一つが、あらかじめ先7日分の時刻表データを送信しておくことです。それにより、不測の事態が発生した場合でも、最低7日間は情報発信が滞ることはありません。そして、その7日間という猶予のなかで不具合を解消していくことで継続した情報提供が可能となります。
また、スマートバス停を設置する場所によっては電力の供給が難しいこともあります。たとえば駅のロータリーならば電源は取れますが、道路脇にあるバス停では必ずしも近辺に電源があるとは限りません。そういった場合、スマートバス停の表示部分に電子ペーパーが搭載されたモデルを配備します。電子ペーパーは表示の書き換えのときにわずかな電力を消費しますが、書き換え後はその情報を保持する特性があります。そのため、時刻表の書き換えにも多くの電力を使わないため、スマートバス停に内蔵されたバッテリーを交換することなく1~2年間は運用できます。
そのような環境に合わせたモデルを提案することもまた、システムエンジニアの役目だと思っています。
■共通のデータフォーマットを採用することで、異なる事業者で同一のスマートバス停の活用や、臨時時刻表の表示も容易に
古谷:バス業界を含め、電車などを含む交通機関では「GTFS」(General Transit Feed Specification)というデータフォーマットが採用されています。GTFSは、世界標準の公共交通データフォーマットで、国土交通省でも利用を推進しています。そのため、国内の多くのバス事業者はすでにGTFSを使ったバス時刻表データを作成、運用しています。当社が提供している「バスダイヤ編成支援システム」「バスナビゲーションシステム」などにおいても、データフォーマットはGTFSに沿ったものになっています。
これらのことから、スマートバス停についてもデータフォーマットはGTFSに対応させています。スマートバス停を導入したバス事業者は、データに手を加えることなく、日々利用している時刻表データのままスマートバス停へデータを送信することが可能です。スマートバス停を提供する根本的な目的はバス事業者の業務負担を減らすことですから、導入にあたって手間を増やすようなことはしたくありませんでした。
なおGTFSデータについては、データサイズも大きくないため、前述したようにスマートバス停に配備されているLTEおよび通信機器に与える影響は少なく、これも消費電力の低減につながっているといえます。
さらに、立地などによっては複数のバス事業者が1つのスマートバス停を利用することもあります。その際も共通データフォーマットであるGTFSが採用されていることで、異なる事業者でも同一のスマートバス停を混乱なく活用できます。加えて、受験シーズンやライブ開催時のように、臨時時刻表の掲示が必要なバス停においても、日時を設定して時刻表を自動更新することで滞りなく利用者を案内することができます。
▲GTFSを採用し、異なる事業者でも同一の画面で時刻を表示
■今後の展望
- バス停の役割にとどまらず、地域に根差した情報発信の起点としても期待
津田:スマートバス停を導入いただいたバス事業者から、時刻表の貼り替え業務の負担が軽減されたという声をいただいています。スマートバス停がバス事業者各社の抱える働き方の問題を解決する一助となっていたらうれしいです。
スマートバス停は、単なるバス停としての機能だけではなく、情報発信のツールとしても活用可能です。今後は、スマートバス停を運用しているバス事業者からの告知事項だけでなく、広告・宣伝に利用する提案も拡大していきたいです。また、協業しているYEデジタルは、マチディア株式会社という企業を設立し、スマートバス停での広告配信事業に乗り出しています。このことから、バス事業の新たな収益源としてスマートバス停を介した広告配信が、スタンダードになる可能性もあるでしょう。
自治体が運営するバス路線については、スマートバス停を活用し、利用者やバス停付近の住民に対して自治体から発信される情報を提供する手段として活用できます。日々の情報だったり、防災情報だったりと提供できる情報はさまざまです。自治体からの情報をすべての住民が見られるわけではないですから、地域に根差した貴重な情報発信の起点になる可能性もあります。
▲情報発信ツールとしてのスマートバス停メリット(将来案)
このように、単なるバス停だけではない発展の可能性を秘めているのがスマートバス停であり、今後のさらなる進化に期待いただければと思います。
- 全体・長期運用を見据えた開発へ。お客様の声に応え、より便利なシステムを目指して
古谷:当社がスマートバス停の提供を開始してそれほど時が経っていないため、システム面においては現状あまり反響が得られていませんが、時間が経つほどに生の声がどんどん寄せられてくるのではと期待しています。
これまでバスソリューションを導入いただく場合、各社の意見を聞きながら、個別にカスタマイズしたシステムを納入することが多くありました。しかし、スマートバス停については先ほど触れたような共同運用を行うことで利便性が向上するというメリットもあります。個別最適化ではなく、全体・長期の運用を見越して最適な提案を行っていきたいですね。
スマートバス停はポテンシャルのある仕組みですので、開発部門としてはバス事業者様、利用者様双方の視点を取り入れながら、これからもスマートバス停を育てていきたいです。
◆スマートバス停の導入事例をダウンロードいただけます
徳島バス株式会社 様
徳島県を中心に路線バスや高速バスを運行し、地域住民の“生活の足”として役割を担っている徳島バス様。スマートバス停の導入の背景から、導入効果、今後の展望まで詳しくご紹介します。
事例内容:
・導入の背景
・導入の経緯
・導入のプロセス
・導入の効果
・今後の展望 他
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