プラスチックは悪か?進化する環境適合力を示し、万博で今一度世に問う
かつては軽量で安価な素材の優等生として持てはやされ、一転して環境問題の観点から厳しい目を向けられるようになったプラスチック。しかし近年、リサイクル率が向上したことに加え、新たに登場したバイオプラスチックの存在によって、環境に適合する道が拓けています。「我々の業界がバイオプラスチックを扱い始めて約4年。世界に発信するには良い頃合い」。一般社団法人西日本プラスチック製品工業協会(以下、西プラ)の岩﨑能久会長は、時機到来と見て、蓄積した技術を引っさげ、大阪・関西万博での披露に挑むことを決めています。プラスチックはどこまで進化するのか。近未来の製品と、環境適合素材としての技術的可能性を示し、プラスチックを今一度世に問おうとしています。業界を取り巻く環境と万博への想いを岩﨑会長に聞きました。
一概に結論付けられない
機能や利便性を満たす代替素材選定の難しさ
日本でプラスチックの量産が本格的に始まった1950年代半ばから約70年。形作りやすく、軽量で安価なこの素材は、大量生産・大量消費時代にマッチし、経済の高度成長とともに普及しました。岩﨑会長には、プラスチック製品の作り手の一人として「人々の日々の生活の利便性を高めてきた」との自負があります。しかし、石油由来のプラスチックが焼却処理する際に二酸化炭素(CO2)を発生して地球温暖化の一因となることや、不法投棄されたプラスチックゴミが海洋生物や人体に悪影響を及ぼす側面があることもまた事実。「ニーズが急激に拡大する中、生産・供給までのビフォアーに気を取られ、後処理などのアフターに目を向けてこなかった」後悔をバネに、プラスチック産業界はいま、急速な変革へと進んでいます。
プラスチックの国内生産量は2000年に、1,445万トンとピークを迎え、いったん減少に転じた後、2009年以降は1,000万トンから1,100万トン前後で推移し続け、劇的な変化はありません。この背景には、Recycle(リサイクル)やReduce(リデュース)、Reuse(リユース)の、いわゆる3Rによる環境負荷低減が進んだ成果として、使う側が採用し続けやすくなったことが挙げられます。一方で、機能やコスト、生産性を満たす代替素材の選定と採用が難しい、という現実問題も見て取れます。
もともと、プラスチックの用途は極めて多様なため、一概に是非や善悪の二元論で決められるシンプルな問題ではありません。例えば、自動車や飛行機などのモビリティーは、プラスチックや炭素繊維強化プラスチックの採用で軽量化した場合、プラスチックが廃棄時に排出するCO2に比して余りあるCO2削減効果を、燃料低減によって得ているのはよく知られた話。また、食品包装材料は、透明のPP(ポリプロピレン)、防湿性を保つEVAC(エチレン-酢酸ビニルプラスチック)、酸素をバリアするEVOH(エチレン-ビニルアルコールプラスチック)、保香のためのPET(ポリエチレンテレフタレート)など複層が一体化したシートのためリサイクルが難点で、時に「ハムのパックに使われるシートの層数はハムの枚数より多い」などと揶揄されるものの、これらのバリア性能を持たない別素材で包装すれば消費期限が短くなり、今度は食品ロス問題が懸念されるところ。産業の分野ごと、さらには部品・部材ごとで、プラスチックは他素材と天秤にかけられるようになりましたが、それぞれ、容易に答えが出せないでいるのが実状です。
▲プラスチックは私たちの身の回りの様々な物に使われている(写真は形作る前の材料)
プラスチックとどう付き合っていくべきか?
現在と未来を知ってもらった上で社会的議論を
「今がまさにターニングポイント」(岩﨑会長)。長い歴史で見れば、プラスチックも金属や木といった他素材から取って替わってきた存在であり、ビジネスや産業、技術で変化がない時代などありません。昨今の素材選択において、環境という軸が加わったことでいったん逆風が吹いたものの、岩﨑会長は「軽さを筆頭に機能面で依然として優位性が高く、弱点であった環境面が解決へと進んでいる」と、復権への確かな手応えを感じています。
その根拠の一つがリサイクル。プラスチックのリサイクル時に必要なエネルギーは、鉄やガラスの5分の1程度で、環境負荷の少ないリサイクルが可能です。長らく、リサイクルを妨げていたのは、単一種のプラスチックゴミを収集する仕組みがなかったことや、再生樹脂の用途の少なさ。しかし、既に国内のペットボトルのリサイクル率は2022年度で86.9%(PETボトルリサイクル推進協議会調べ)と世界的に見てもトップレベルになっているほか、新型コロナウイルス感染症対策で使われたアクリル板が回収され、ゴミ箱やアクセサリーといったまったく別物に生まれ変わるなど、リサイクルの事例はそこかしこで生まれているのです。「プラスチックのリサイクルは壁があるだけの話で、それらも絶対的に解決不可能なものではありません」と岩﨑会長は断言します。ただし、単一種のプラゴミを集める仕組みを構築するには相応の時間がかかる上に、プラスチックを扱う企業や流通業者、消費者の協力体制が不可欠です。西プラの万博参画の目的の1つは、社会との対話にあります。「現在と未来の環境適合力を示し、プラスチックを正しく知ってもらい、判断してもらうこと」を掲げ、その先に「プラスチックとどう付き合っていくべきか」の社会的議論を期待しているのです。
▲万博のブースイメージ
Nature Positiveへと舵を切る
他素材と天秤にかけられる危機感が素材の進化を後押し
形態や物量、必要機能、使われ方などの問題から、3Rが将来的にも難しいプラスチック製品・部品は存在します。しかし、新たな素材として登場したバイオプラスチックが、プラスチックを環境に適合させる選択肢の幅を拡げてくれました。4つ目のR「Renewable(リニューアブル)」です。バイオプラスチックは、植物など再生可能な資源を原料とするバイオマスプラスチックと、微生物の働きで最終的に二酸化炭素と水に分解される生分解性プラスチックの総称です。主に、前者は脱石油による地球温暖化問題の低減につながり、後者は海洋プラスチック問題の解決に寄与するものとして注目され、中には、バイオマス資源で生分解性でもあるポリ乳酸や微生物産生ポリエステルなどもあります。
▲バイオプラスチックを使ったカゴ
西プラは万博参画にあたり、大阪府のヘルスケアパビリオンに期間限定で展示・出展する「リボーンチャレンジ」に手を挙げ、『バイオプラスチックでREBORN』と銘打って8月19日~25日に参加する機会を得ました。従来のプラスチックが抱える、地球温暖化と海洋プラスチック問題の解決の糸口となるバイオプラスチックを軸に据え、テーマには「Nature Positive(自然との共生)」という言葉を盛り込みました。環境への負荷低減にとどまらず、さらに高い目標を掲げたのは、プラスチック素材が持つ環境面でのポテンシャルへの自信の表れでもあります。「技術的には着実に積み重ねが増えており、この流れが本格化すれば、プラスチックが環境にポジティブな存在になり得る」と岩﨑会長は未来を語ります。一方で、実現には、コストの壁がそびえたつことにも言及。「従来のプラスチック製品と比較する必要がない新たな価値を持った製品でバイオプラスチックを採用するのが理想」とし、作り手側が、企画・開発力を向上する必要性を指摘します。また、従来プラスチックから素材を置き換える製品については、「やはり消費者の理解が不可欠で、環境に対応するためのコスト許容度はどこまでか、社会全体で考え、合意点を探さなくてはいけない」と気を引き締めます。
プラスチックは近年、他素材に取って替わられるという危機感を持つことで、素材の進化が早まり、急速に環境への適合が進みました。「今後も選ばれる素材でありたいし、そうあると確信している」と語る岩﨑会長。西プラにとって万博は、プラスチックの進化と真価を示し、より多くの人にプラスチックの現在と未来を知ってもらうPRの場であり、素材の未来を消費者とともに考えるための接点でもあります。
▲日常で徐々にバイオプラスチックが増えていく (写真右下のゴミ箱はバイオプラスチック製品)
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