中学の頃、包丁男に軟禁されてトラウマを持った僕が大学で全国模試1位を取るまでの軌跡⑥
「いってーーーーーな!!!!何すんだおまえ!!」
A氏が気をそらしている隙に、思いっきりA氏の腕を噛んだ。
予想通り、A氏の腕は緩み僕は解放された。
今になって振り返っても、僕には「このタイミング」しかなかった。
いや、後にもっとリスクの少ない場面があったのかもしれないが、
未来のことは予測できなかったし、そんな不確定なことはどうでもよかった。
とにかく「今」を生きる選択をした。
解放された僕は、ダッシュで空いている玄関に向かった。
必死に。
必死に。
ただただ、ダッシュした。
女と宅配便のおじさんの間をすり抜けるように外に出た。
塾のカバン、靴、自転車までも置きっぱなしにして。。。。
季節は冬。そして裸足。
一瞬で寒さが身体をまとわりつく。
そんなの関係ない。
無我夢中で走った。
たぶん1kmくらい走ったところで、ようやく疲れを感じた。
と、同時に唯一ポケットに持っていた携帯電話が鳴った。
A氏だ。
僕は電話に出なかった。
1度電話が切れ、ふと着信履歴やメールボックスに目をやると、
親からの電話やメールがものすごくあったのが確認できた。
無我夢中で走っていたので気が付かなかったのである。
たぶん心配してのことだろう。
しかし、当時の僕には「返信する」という選択肢がなかった。
今思えば本当にバカだが、中学生の自分の判断はそうだった。
その後、
1件、また1件と電話が鳴り止まない。
そう、A氏からだ。
すぐに着信履歴はA氏で埋まった。
留守電が入っている。
でも聞けない。とにかく恐怖と寒さで、身体が動かない。
突っ立っていた僕は裸足のまま近くの公園のベンチに座り、
凍える手で留守番電話サービスのボタンをプッシュした。
「もしもし、さっき噛まれてところから出血しちゃっているんだけどどうしよう?早く戻ってこないと知らないよ。」
寒さ以上に恐怖で鳥肌が経った。
やってしまった。。。。。
もうどうしよもないのか。。。。
僕の脳裏に「絶望」の2文字がよぎった。
僕は今でもたまに夢を見る。
真冬の夜の公園で裸足で一人うつむきながら、寒さ以上に恐怖に駆られた自分の姿を。
だから、あの瞬間は一生忘れることはできないんだろうと思う。
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今僕は幾つも仕事を掛け持ちしているが、全然忙しいとも大変とも辛いとも思わない。
もしかしたら、こういった衝撃的なそしてトラウマになる過去を必死で消そうとしているのかもしれない。
コンプレックスのある人間は「強い」と言われるが、本当に気持ちがわかる。
僕が大学時代に全国1位をとり続けたのも、今現在頑張れるのも、
潜在的な動機としては、こういったトラウマに対しての反骨心・反抗心なのかもしれない。
つくづく、そう思う。
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その後、僕はA氏の家に戻る決断をする。
「なぜ、実家に戻らなかったのか?」
この話をした時にそう聞かれることが多いが、確かに僕もそう思う。
当時の自分にそう言ってやりたい。
だが、中学3年生で反抗期の自分には「親にバレたら怒られる。恥ずかしい」という気持ちが強かった。
本当にバカだったと思うが、中学生なんてそんなもんなのかもしれない。
感情に流されて決断をしてしまっていた。
そして、僕はA氏の家に戻る決断をし、裸足でトボトボとA氏が待つ家に戻るのであった。
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