名前のない喫茶店 ~北本さんのワクワク~

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前編: 名前のない喫茶店 ~南雲さんの自分らしさ~
後編: 名前のない喫茶店 ~葛西さんの今しかないこと~

北本は喫茶店からの景色を見るともなく、ぼんやり眺めていた。答えを探していた。

今月2回目の仮病休暇だった。朝いつものように家を出たが、どうにも気が乗らず会社に熱があると電話した。結婚した妻が間もなく身ごもったため、会社は比較的融通のつきやすい総務の仕事に移してくれた。正直多少休んだところで、大して仕事の問題はなかった。休みを告げた電話で上司は無理してないかと労ってくれさえした。

しかし、北本は今日の自分を割り切ってしまうことはできなかった。こんなことはこれまでなかった。仕事をサボってしまうようなダメな自分になってしまった、その理由を知りたい。

仕事に不満はなかった。総務の仕事はまだ慣れないが、自分の都合を考えてくれた会社の人事に、むしろ感謝していた。人間関係も問題なし。妻とも生活面に多少の意見の相違はあるが、おおむねうまくいっていると思っている。問題どころか順調そのものだった。どこにも穴も隙間もなかった。

北本はため息をついた。いくら考えても答えなんて浮かびようもなかった。でも、なぜかどうしても何かを知りたい気持ちが、仕事を手に着かさせなくさせているようだった。


そのとき何かが北本の視界に入り込んできた。赤、青、黄色。原色の紙片が、初夏の草原に散らばった。

虫取り網を持った子どもたちだった。一人は今時珍しく麦わら帽子をかぶっていたが、服装はみんな現代っ子らしいカラフルで可愛らしいものだった。

俺が子どもの頃は、あんな服着させてもらえなかったな、と北本は思った。七五三の時ぐらいかな。毎日いつも似たような格好の服ばかり着て、そんなこと特に気にもしなかった。

子どもたちは、服に泥が着きそうなくらい腰をかがんだり、手足を伸ばして、何か捕まえようと必死の様子だった。あれじゃ、親から叱られやしないだろうか、と北本は微笑んだ。

俺もあんな頃があったな。よく近所にザリガニ捕りにも行ったし、フナを釣らせてもらったりした。擦り傷や切り傷ばかりで、母さんにはよく怒られた。

何だかいつも楽しかった。毎日わくわくして、時間が経つのがあっという間で。

何があんなに楽しかったんだろう。特にいつも同じようなことをただやってただけなのに。何も考えなくても、いつもやりたいことが浮かんでて。

何も考えない?

北本はあれと思った。

何も考えなくても楽しいことってあるのか。楽しいって理由があるものじゃないのか。じゃあ、今悩んでいることも答えなんてあるんだろうか。

いや、ザリガニ捕りと仕事は違うじゃないか。何も考えなくて仕事なんてできないよ。北本は笑った。

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