「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑩
いつもと同じ。
時刻は4時半を過ぎていた。
ガシャン。
玄関のドアの開く音。
「ただいま。」
少し気の抜けた、それでいて温かい声。
母が帰ってきたらしい。
さゆりは部屋の電気を消すため、天上からぶら下がる白玉に手を伸ばそうとしている。
ギリギリの距離にその白玉は浮いていた。
一度、引き損ねると左右に揺れて、なかなか掴めない。
さゆりは3日に1度は失敗し、結局起きあがるはめになっていた。
「今日は疲れたから一発で決めてやる。」
そう心の中で言い聞かせ、狙いを定め手を伸ばした。
母が帰ってきた後、詩織はシャワーを浴びに行き、私は母と一緒に夕食を作った。
今日は家族皆が好きなカレー。
涙をこらえながら、玉ねぎを切るとその後に人参、ジャガイモと続く。
母はその間にカレーのルーを作り、前菜としてサラダを作っていた。
レタスをお皿に盛りつけ、赤と黄のカットされたピーマン、その上にサーモンの切り身を添える。
今日はさらにミニトマトが一つだけ乗っていた。
【⑪に続く】
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