コネも金もない無名のアーティストが、世界のアートバーゼルでストリートショーを開催する話

アートバーゼル

アートバーゼルとは、毎年スイス北部の都市バーゼルで開催される世界最大級の現代アートフェア。メインの会場では300以上の世界のトップギャラリーがひしめき合う。作家数約4千人、来場者は7万人を数える(会期5日間、2013年)。

アートバーゼルはバーゼルの他にマイアミと香港でも開催されているが、近年その中で最も熱いと言われているのが、アートバーゼルマイアミビーチである。毎年12月の開催期間中には、マイアミの町がアート一色に染まる。

そのアートバーゼルマイアミビーチで、2014年12月4日、コネも金もない無名のアーティストが、大きな赤いサソリを背負い『非現代アート』を掲げて、ストリートショーを開催した。

ペットボトルで制作した等身大のクモやサソリを背負って町を歩き、誰に呼ばれもしないのに勝手に世界中でストリートショーを開催している、眉だけは太いその男はタケシ・スパイダーと呼ばれている。

初対決

バーゼルはスイス第三の都市であり、スイス最古のバーゼル大学、多くの美術館、世界的に有名な建築物を擁する芸術の香り高い町である。その町で毎年開催されるアートバーゼルという世界最大級のアートフェアで、ストリートショーをする為に、2012年6月タケシはバーゼルに向かった。

アートバーゼルには世界中の高価なアートが集まっているので、たくさんの警備員や警察が会場を警備していた。昨日の様に正面入口前を歩き、そこで出会ったスイスの映画監督に作品の解説をしたり、現地新聞社の取材を受けたりしていたら気分が乗ってくる。その勢いに任せて、赤いスパイダーを背負ったままエントランスホールに入りビデオを撮った。

そのまま会場内に入ろうとすると、ゲートで警備員に真顔で呼び止められる。それ(スパイダー)をクロークに預けてくださいとの事。

 

こうしてアートバーゼルとの初対決は秒殺されて終了。後でまた来ることにして、少しだけ写真を撮ってから素直に外へ出る。何だか疲れがどっと出てきたので、とっとと宿に帰って少し寝る。いつか必ず、自分の作品を背負ったままアートバーゼルの会場内に入ってやろうと勝手に闘志を燃やした。

スパイダーを宿に置いて、後で再びアートバーゼルに行き、会場内を一回りした。

それにしても、なぜ人々はこのように空虚でフニャフニャした作品ばかりを並べて、それをさも中身のある物の様に見せて、更にそれを高値で取引しているのか?

実は、現代アートは空っぽであるという事に気付いている人も多いのではないか?

タケシは、「王様は裸だ!」と叫びたい衝動に駆られた。

  


アートバーゼルマイアミビーチに挑戦

それから一年半後の2013年12月、今度はマイアミで開催されるアートバーゼルマイアミビーチに挑戦する。

朝からマイアミビーチに行き、波は少し高かったがひと泳ぎする。午前中はそのまま青いサソリを背負ってビーチを歩く。

午後4時にアートバーゼルマイアミビーチに向かう。チケットを買ってロビーまでは問題なく進んだが、会場入口でまた警備員に呼び止められた。ごねても時間の無駄なので、サソリをクロークに預けて中へ入る。

 

現代アートの祭典と言う割には、会場内には古い作品や高価なゴミがこれでもかと言うくらい並んでいて、多くの人々がそれを眺めていたが、その半分も見ないうちにイライラしてくる。世界一のアートバーゼルマイアミビーチには、世界のトップクラスのギャラリーが並んでいて、やはり世界トップクラスの現代アートが並んでいるはずである。そのほとんどがゴミ同然だということは、現代アートはすでに終わっているという事になる。

しかし、同時期にマイアミビーチで開催されている、スコープ、アクア等のアートフェアには、サソリを背負ったまま問題無く中に入れた。現代アートと言っても、それらのフェアで見た作品の中には良いものが結構有った。また、町中を歩いている時に、タケシの作品に興味を持ち話しかけてきて、喜んでくれた人が大変多かった事は大きな自信となる。

 


スコープマイアミの村長になる

2014年12月再びマイアミへ向かう。3日はV.I.Pだけ入場できるプレビューの日だったので、アートバーゼルでV.I.Pが入場待ちしている列に並んで、彼らと一緒に入ってしまおうと思った。ロビーまで進んだところで、背負っていた赤いサソリが目立ちすぎてやはり警備員に見つかる。とりあえず、パンフレットを探しているふりをするも問答無用で外に出される。3度目の正直という言葉はアートバーゼルには通用しなかった。

その日の午後、マイアミ在住のラナとニューヨークから休暇で来ていたルークと友達になり、夜はアートバーゼルのオープニングレセプション(一般公開) に行って皆で盛り上がった。また、連日町を歩いていると、昨年の作品を覚えていてくれていた人も多く、とても嬉しかった。

昨年と同じく、スコープマイアミ、アクア、アンタイトル等のアートフェアにも、サソリを背負ってお邪魔した。特にお気に入りのスコープには会期中、日に一度は顔を出した。飲み物はカクテルやエスプレッソ等全て無料なので、サソリを背負ったまま、グラスを片手に作品を鑑賞しながらぶらぶら歩いた。周りの人から見ると、アートがアートを鑑賞しているという面白い情景だったようだ。

次第に会場内の多くの人達と仲良くなり、警備員も顔パスで通してくれるようになって(一応パスは持っていた)しまいには、スコープマイアミの村長というあだ名まで付けてもらった。アートフェアはこのようにオープンかつフレンドリーであるべきだと思う。


巨人に最後の勝負を挑む

「てやんでぃ。」

このまま負けてたまるかと、翌日、最後の勝負を挑む。

ルークが金では買えないというアートバーゼルのV.I.Pカード(友人同伴可)を持ってきたので、一緒にアートバーゼルマイアミビーチに向かう。昼過ぎだったので、会場は空いていて珍しく人もまばらだった。これまでの様にチケット確認係や警備員に止められることも無く、彼らと普通に挨拶をして冗談を交わす。もしかしたら、タケシの事をV.I.Pの金持ちのクレイジーな友達くらいに思ったのかもしれない。

赤いサソリを背負って、そのままスーッとゲートを通り抜けてゆく。周りの全てがスローモーションの様に見える。今まで何度も入場を阻まれた鉄壁のゲートを過ぎて、ついに会場内に入った。

「オッシャー!!」

叫び出したい気持ちを必死に抑えて、とりあえずまっすぐ歩く。

一度中に入ってしまえばこっちのものだ。赤いサソリを背負ったまま、ルークと3時間程会場内を、ストリートショーという形で練り歩く。すかした態度の金持ちや、何であんたここにいるの?という両目に??マークの人や、同じく両目に$$マークが付いている様な人が多かった。しかし、中にはフレンドリーで、作品に興味を持ってくれた人や、素直な感性を持っている人もかなりいて、彼らとはいつもの様にショーを共有できた。また、現代アートを完全否定した非現代アートという概念に、関心を持つ人も結構いた。

“現代アートの時代はもう終わった。非現代アートを今、私から始めよう。”

この一言をアートバーゼルの会場内で言った時、タケシとアートバーゼルとの3年に渡る対決にひとまず幕が下りた気がした。


現代アートの正体と非現代アートの誕生

世界のアートバーゼルマイアミビーチは、文句無く現代アートとアートビジネスの牙城であり一大中心地である。タケシはそこであえて非現代アートという対極の概念を突きつけて、非現代アート作品である赤いサソリを背負い、無料のストリートショーをやるという事で、アートバーゼルを初めとする現代アート界に喧嘩を売った。

それはアートバーゼルという巨人の足の小指に、小さなサソリが一刺しした様なものかも知れないが、そこから体内に入った毒が回って、近い将来この巨人は倒れるかもしれない。倒れなければ、また刺しに行くか他の巨人を狙うだけだ。踏みつぶされたなら、それも定めだ、悔いはない。

英語で現代アートという言葉の意味を、掘り下げて考えてみると以下のようになり、その正体は詐欺的で一過性のアートなのだと言う事が出来る。その現代アートの対義語が、タケシが考え出した非現代アートである。

Con+temporary+Art=Contemporary ArtNontemporaryArt=Non+temporary+Art

詐欺+一過性の+アート=現代アート⇔非現代アート=非+一過性の+アート

 

非現代アート

芸術はかつて、もっと情熱的で力強く、魂がこもっていた。まるで、人種や文化の違いにも屈しない、美しい恋人たちのように。今はもう、無感動で無力かつ空虚なものになってしまったそれを、現代アートと呼ぶ。“現代アートの時代は終わった。非現代アートを今、私から始めよう。”非現代アートとは、芸術の核を取り戻す試みである。

完全にビジネスと資本主義の支配下に置かれてしまった、腐った巨木のごとき現代アートは、もう終わらせなくてはならない。

逆説的に聞こえるかもしれないが、世界の様々な問題に警鐘を鳴らすべき芸術家と芸術が力を失い、これほどダメになってしまったから、世界はここまでおかしくなってしまったのではないか?

“私は世界を少しでもマシな方向へ変えたい。非現代アートという武器を使って。”

“これからも世界中でストリートショーを続けてゆく。”

“では、いつかどこかでお会いしましょう。”

タケシ・スパイダー

おわりに

アートが空虚で難解なパズルの様なものになってしまったのはいつからだろうか?

アートの本質は考えるものでは無く感じるものではなかったか?

アートをギャラリーや美術館以外で発表する方法はないだろうか?

そんな事を考えながらひたすら制作を続け、気が付いたらペットボトルの大きなクモやサソリを背負って、外国の知らない町を一人歩いていた。そしてアートバーゼルと出会い、その会場内でストリートショーを開催するという無謀な挑戦を続けて、ついにその目的を達成した。その事にどれ程の意味が有ったのかは分からないが、少なくとも自分の中では挑戦する価値のある事だったのだと今も思う。

最後に一つだけ。

アートを鑑賞する時は、まずは頭で考えるのではなく心で感じてほしい。何も感じない作品はスルーして良い。優れた作品は強力なエネルギーを持っていて、それは必ずあなたの心に直接響いてくる。そして脳の中に記憶として刻み込まれる。そういう出会いがあなたの感性を磨き、きっと心と人生を豊かにしてくれるだろう。

では、良き出会いを。

最後まで読んでくれてどうもありがとう。

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