【私の思い出たち】〔第八話〕

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風の中に消えた

 私ははじめに勤務した小学校で金管バンドの指導をしていた。最初は8名から始まったバンドだったが,5年目には40名弱まで増えた。

 私は当時から,演奏会のビデオ撮影と編集をしていた。その年のビデオには,インタヴューに答える形で

「一番好きな曲は,〈星に願いを〉ですねぇ」

と話すシーンが盛り込まれていた。時間がかかったがなんとか編集を終え,演奏会のビデオを子どもたちに配付したのが3月半ば過ぎだった。私は転出することが決まっていたので,編集を終えた日から引越作業に本腰を入れた。


 4月1日。田舎の学校では,〔出発式〕を執り行う。そのクライマックスは,転出する教員が車に乗り,校舎の前に集まっている人達に向かって手を振るところだった。私も同僚の運転する車に乗り込み,校舎の前で手を振ろうとしていた。風にのって聞こえてきたのは,金管バンドの音だった。

 4月の寒空,屋外で演奏するのはつらいだろうに(北海道の4月はまだ零下)子どもたちは一生懸命に演奏してくれていた。


 4月1日の午前10時頃,金管バンドの〈星に願いを〉が響く中,私は次の赴任地に送り出されていった。通りの角を曲がる時,ディズニーの名曲は風の中に消えていった。

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