【ぞうれっしゃがやってきた!①】
『ぞうれっしゃがやってきた!』という名の絵本がある。私はこの本が大好きだ。この絵本には,全てが詰まっている。後世まで伝えられるべき名作だと思う。それは,文章がいいとか,こんな決めぜりふがあるとか,こんな素敵な絵があるとか,そういう類ではない。真実の重さ,人間の素晴らしさ,生命の重さが,伝わってくるのだ。
出会い
“ぞうれっしゃ”と私は,しかしこの絵本で出会ったのではない。話は31年前にさかのぼる。当時私は大学生で,毎日歌を歌っていた。ギター片手に歌うのだ。そんな私に,ある日妹が
「こんなんやってんねんけど,興味あるんとちゃう?」
と送り届けてくれたものがあった。それは,分厚い冊子だった。
ページをめくってみると,未体験の興奮が私を襲った。なんだこれは!合唱構成?ぞうれっしゃ?平和を歌う?知らない言葉がたくさん出てきた。表紙は手塚治虫先生が描いたものだろう。手塚先生が賛同しているのなら,良いものに違いない。
〜それは,混声四部合唱の合唱組曲に話がついたものだった。いわゆる〔コンサート形式ミュージカル〕といわれるような形のものだ。妹はピアノの名手だ。伴奏を頼まれて,この合唱の虜になってしまったらしい。
よく読むと妹がよこしたものは,『合唱構成“ぞうれっしゃがやってきた!”を成功させる会』のものだった。近々発表すると書いてあったが,発表会の日付を見ると,もう本番は終わっていた。私は当日の音源がないかを妹に尋ねた。…あるらしい。私はすぐに送ってくれるように,妹に頼んだ。
そして数日後,1本のカセットテープが届いた。…30分後,私は涙が止まらなくなった。私と“ぞうれっしゃ”との出会いは,鮮烈だった。
(つづく)
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