【ぞうれっしゃがやってきた!②】
私と“ぞうれっしゃ”は,かくも強烈な出会いを果たした。私はその後,“ぞうれっしゃ”を何度も歌い,自分のレパートリーにしていった。そんなある日,本屋に立ち寄った時,ふと絵本のコーナーに目をやった。そこで私の視線はくぎづけになった。えっ,“ぞうれっしゃ”って,絵本になってるの?
本当はあべこべだった。まず絵本があり,それをもとにして,合唱構成が作り上げられたのだった。私はもちろん絵本を買い,何度も読んだ。ああそうか,この感動に接して,藤村さん(“ぞうれっしゃ”の作曲者)は作曲をしたのだな,と感じた。
時は流れて…今から18年ほど前のこと。
「先生,こんど“ぞうれっしゃ”っていうのをやるんだけど,知ってる?」
知り合いの先生から声をかけられた。ビックリした。
「楽譜は?」
と,はやる気持ちを抑えて私は質問した………これ以降私は,“ぞうれっしゃ”の楽曲たちと真剣に向き合うようになった。
なぜそんなに魅せられるのか。それはなにより,内容が素晴らしいからだ。
『ぞうれっしゃがやってきた!』は,戦争中から戦後すぐのころが舞台の物語だ。物語の中心は,名古屋にある東山動物園。そこには,ゾウがいなかった。
時は第二次世界大戦のさなかであり,各地で物資は底をつきかけていた。木下サーカス団はゾウを飼うのに苦労していたので,東山動物園の園長にかけあい,動物園でゾウを育ててもらうことにしたのだった。ちょうどゾウがほしかった動物園は大喜び。園長も飼育係も嬉しそうにゾウを出迎えたのだった。そこにやってきた4頭のゾウたち,〈アドン〉〈マカニー〉〈エルド〉〈キーコ〉。サーカスのゾウだから,曲芸もできるのだという。これはまた素晴らしいと,動物園の職員は盛り上がった。
諸々の打ち合わせなどが終わり,ゾウを連れてきたサーカスの団員が帰ろうとすると,ゾウと一緒に生活してきた踊り子さんたちが,ゾウのそばをなかなか離れない。いつまでも名残を惜しんでいる彼女達を見て,園長はゾウを大事に育てようと,強く心に刻んだのだった。
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