ダメだ、絶対に。
「これは僕が預かります。」
「あぁ、いいよ!持ってってくれて。俺は大丈夫だから。」
トゥルルルルルルルル…
トゥルルルルルルルル…
トゥルルルルルルルル…
「こちらは留守番電話サービスセンターです、、、、」
「なぁ、やっぱ帰ってきてくれないか?」
トゥルルルルルルルル…
トゥルルルルルルルル…
トゥルルルルルルルル…
「こちらは留守番電話サービスセンターです、、、、」
「おーぃ!!聞いてんだろ?戻ってきてくれよな!」
トゥルルルルルルルル…
トゥルルルルルルルル…
トゥルルルルルルルル…
「こちらは留守番電話サービスセンターです、、、、」
「ザっけんなよ!!!!戻ってこいよオラ!!!」
僕はその留守電を聞いた後、コンビニのゴミ箱に
シャブを捨てた。
覚せい剤一瞬所持。
僕は、本当の地獄を見た。
毒をもって毒を制す
20代前半、僕はコミュ症や女性不信を解消したくて六本木のメンズキャバクラの門を叩いていた。
ホストではないメンズキャバクラ。
ちょっとカジュアルな接客に料金体系がキャバクラスタイル、指名替えOK、場内指名有りと言う、日本で初めてのメンキャバで働いていた。
映画のプロモーションとコラボレーションしていたので、俳優志望が多かったというのもあり、ビジュアル的にイケてる人がそこそこいたし、六本木の綺羅びやかで今まで見たことがない世界に毎日が心躍っていた。
直前まで引きこもりをしていたし、女性とは何人か付き合ってはいたけど、包丁沙汰(元カレと浮気をしたショックで自分の首に刺そうとした女性がいた…)の恋愛で女性不信を引き起こしていたし、基本的に萎縮タイプのコミュ症なので、それらを解消するにはかなり毒をもって毒を制すような挑戦だった。
入って一ヶ月目、バックヤードで表に出たい新人がグラスをピカピカに磨いている。
もちろん僕も表に出たいけど出れないから磨いている。
先輩のゲロ掃除も僕達新人の仕事だったりもした。
そんなバックヤードの空気は表に出たいけど出れない憤りや、表に出れない理由が分からず不平不満が溜まりまくって暗く沈んだ表情をしているものだから、尚更表に出させてくれないという悪循環が続いていた。
その中で一人呼ばれ二人呼ばれ…僕だけ呼ばれない問ことも多々あった。
なので、何かを変えないと何時まで経っても表に出れないし、顔を売ることも出来なければ指名も取ることも出来ない。
その店は今考えるとダサいけど、名札を付けることになっていて、ナンバーと源氏名が書いてあったので
「◯◯さん、おはようございます!」
「◇◇さん、お疲れ様です!!」
など、名前を呼んでから挨拶するというスタイルに切り替えた。
それからぽつりぽつりと呼んでくれるようになったし、場内指名もその挨拶が功を奏して頂けたりもした。
一匹狼
そんなメンキャバ生活を半年ほど過ごしながら指名も徐々に取れ始めた頃、オープニングメンバーだったけど、途中でやめた竜先輩が出戻りしてきた。
このメンキャバは映画のプロモーションも兼ねていたので、ビジュアルがイケてる人は確かにいた。
でもカリスマ性やオーラがあるって思う人は誰もいなかった。
もしかしたら少しはオーラがあった人もいるのかもしれないけど、夜の欲、六本木の欲に負けて
役者で売れる<ホストが楽しい
になってしまう人も多かったと思う。
役者の夢を叶えるために人脈を広げよう、生活のために働こうって思いつつも、六本木の強烈な誘惑に負けてしまった人は本当に多い。
キャバクラやクラブ(女性が働く)でも同じように、お金の魔力に取り憑かれて本来の目的を忘れてしまって、そのままお金のためだけに働き続けて自分を見失っている夜の蝶も何人も見てきた。
とにかくVIPなお客さんが来る。だから自分も同じ位凄いと錯覚する。
そして遊びに行ってもお金を出さなくてもいい。
虚像である源氏名
金で口説かれ、金で口説く
落としもするし、落とされもする
全部が虚像だ。
とにかく六本木と言う街の夜で働くというのは非常に危ない街だと思う。
もちろん、スポンサーを見つけてお店を出したり、そこで出会った人に拾われてビジネスを立ち上げた人も多いからチャンスはあるけど、とにかくブレやすい街。
そんな、危険な街、六本木で一番勢いがある所謂ホストクラブ(メンキャバではるけど形態が一緒なので)で、ずば抜けてオーラがあったのが、その竜先輩だった。
180センチを超える身長に、日本人ばなれした股下、そして帰国子女の感性からくるファッションセンス
そして歌も歌手並みに上手く、話もずば抜けて面白かった。
顔はと言うと、揃いも揃っているのにも関わらず芸能人並だった。
今で言うと三浦春馬をワイルドにした感じだろうか。
そんな竜先輩は仕事が終わると、誰とも一緒に帰らず
「おつかれさんっ。」
と言ってそそくさと帰ってしまっていた。
同じテーブル上で一緒になると盛り上がって会話は回すけど、プライベートは全く分からない謎な先輩だった。
アフターで
そんなホスト生活を一年ほどこなしていくと、六本木が自分の街のように感じるようになって来た。
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