ギャラリーと決別した眉太男が、ペットボトルで作ったスパイダーを背負って、ニューヨークでストリートショーを開催する話。02

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前話: 25歳の楽天的眉太男がワーホリでカナダに渡り、念願のブロンズ彫刻を学ぶ為に彫刻家の弟子となり、現地で師匠と2人展を開催。その後アーティストになった話。

初日と2日目は、トップギャラリーが軒を連ねるチェルシーでショーを開催した。

さすがは、ニューヨーク。しかもそこはチェルシー。行き交う人々はアートにとても関心が高いし、ある意味アートを見慣れているというか目が肥えている様だった。ペットボトルのスパイダーに興味を持ち色々な質問をしてくる人もいれば、車から「スパイダーマン!」とか、親指を立てて「グレイト!」とか声援を送ってくれる人もいた。

通りを歩きながら気に入ったギャラリーを見つけると、作品を背負ったまま挨拶して中へ入り展示を見た。どこのギャラリーでも行儀良くしていたからか、つまみ出されるようなことは無かった。ガゴシアンギャラリーでは、彼が大好きな芸術家アンゼルム・キーファーの個展が開催されており、夜のオープニングパーティーでは、なんとドイツからキーファー本人が来ており、挨拶と握手までしてしまった。

作品を背負ったタケシを後ろから見ると、スパイダーがギャラリーの作品を見ている様で、奇妙な面白さがあるというコメントを貰った。また、素材であるペットボトルの立てるカランカランという音が心地よく響き、歩く調子に合わせて作品の足が適度に揺れて、とてもリズミカルな動きをしていた。

動画を撮影して記録に残したいと思い、何本も撮影をした。デジタルカメラをブロックなどの上に置いて撮影したり、そこを通りがかった人に頼んで撮ってもらったりもした。それでもなかなか、納得のいく映像を撮ることは難しく、YouTubeに載せられるレベルの動画は、3~4本に1本あれば良かった。その記念すべき初投稿作品がこちらである。

YouTube: spider street show

 

ショー3日目、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の前でショーを開催。世界の近現代アートを集めたその美術館の周りには、ストリートショーに対しても寛容な人が多かった気がする。外で撮影をすませて、さらに館内のロビーでショーをしてから、フロントの責任者らしき人に話しかけた。半分本気で。(本気と書いてマジと読む)

「作品をMoMAに売りたいのですが、どうしたら良いでしょう?」

彼は上手くかわした。

「申し訳ない。今日はディレクターもキュレイターも居ないのだよ。彼らは日曜休みでね。」

親切な彼はお詫びの印に、MoMAの無料入場券を一枚くれた。


現代アートとは何なのか?

ちょうどMoMAまで来たので、ここからは現代アートについてショーをしながら考えていこうと思う。

現代アートの扉を開いた男、マルセル・デュシャン。

彼の作品『泉』は、既製品の小便器にサインをしただけというもので、彼はそれを無審査で展示できるはずの展覧会に出品するも、結局、その作品が観客の目に触れることは無かった。しかしその作品は当時の美術界に大きな衝撃を与えた。彼の主張したかった事は、

「既製品でも何でも結局、美術館に置いてあるからアートと呼ばれるのでは?」

の一言に尽きる。

この問いに対して、自分なりの答えを用意した。

「作品は美術館に置いてあるからアートと呼ばれるのではなく、どこで展示しようが、それが作家の魂を込めたものであればアートなのではないか?」

タケシは、アートは作家自らが制作するべきであり、作品には必ず主張やメッセージを込めることが重要で、それを観客に伝えるためには最大限の努力が必要だと信じている。

ショー4日目はThe Met(メトロポリタン美術館)に行く。午前中で人影もまばらな美術館の前でショーをやっていると、セキュリティーガードが寄ってきて、ここで写真を撮るなとか、すぐに荷物を移動させろとか、色々うるさかったので早々に切り上げた。彼らは、こういう先鋭的なアートは好きではないのかもしれないと思った。しかし短い間だったが、良い写真と画像が残せたし面白い出会いもあった。

その後、再びチェルシーでショーの最終日を締めくくる。いくつかのギャラリーでは顔も覚えてもらえたし、工事現場の作業員やカフェの店員とも顔なじみになっていた。また、すっかり常連になってしまったガゴシアンギャラリーでは、キーファーの作品を心行くまで眺めながら、セキュリティーガード達(なぜか全員黒人)と雑談を楽しんだ。

ショーの終了直前に、サンフランシスコから作品を収めにきたという彫刻家から、

「この3日間チェルシーを中心にニューヨークの多くのギャラリーを回ったが、あなたの作品がベストよ。本当に素晴らしい発想力ね。」

という嬉しいコメントを貰う。

こうして、初のストリートショーは静かに幕を閉じた。わずか4日間ではあったが、たくさんの場所を訪れ、多くの人々と作品を共有することができ、ショーのノウハウを手に入れた。次回はどのような作品を作り、いつ、どこでショーをするのか?帰りの飛行機の中で、ショーの構想を考えては、一人でワクワクしていた。