【第三話】『さよなら…』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
そんなことを思い出した。
「こういうことだったのか…。」
確かにこんな姿を彼女に見せるわけにはいけないな…
不眠のせいか、薬の副作用か、常に身体がダルく、呂律は回らない。
無意識に一点をじっと見つめているような状態で、視点も合わず、
何もする気が起きない。
景色は色を失い、すべてが灰色に見えた。
魂を抜かれてしまったかのように、感情は失くなり、
僕はだんだん、一日中横になっている日が増えていった。
外出するのは、週一回の病院の日だった。
相変わらず、渋谷まで通っていたが、もう一人で通える状態ではなかった。
心配をかけたくなかったが、母親について来て欲しいとお願いした。
僕はいつも、サングラスを掛け、人目を避けた。
外部の世界が恐ろしくて仕方なかった。
全てが敵に見えた。
隣にいる母親にさえも、心を閉ざしていた。
親として当たり前のことだと思うが、
時折、僕をこんな状態にした彼女のことを悪く言った。
僕自身、誰かのせいにしてしまえば、気持ちは楽になるだろうと思っていた。
でも、どうしても彼女のせいには出来なかった。
僕の中で、彼女は全く悪くなかった。
悪いのは全て僕だった。
僕が未熟だから。
僕が彼女の気持ちに気が付けなかったから。
僕が彼女を傷つけたから。
僕がうつ病になったから…。
一日中何も出来ず、食べて寝るだけの生活だった。
僕は、何も生み出せていない。
それどころか、人に迷惑をかけてばかりだ。
会社の人に迷惑をかけ、
彼女や彼女の両親に迷惑をかけ、
友達に迷惑をかけ、
自分の家族にも迷惑をかけている。
親だって、こんな息子でガッカリしているに違いない。
こんな息子に育ってしまって、さぞ恥ずかしい思いをしているだろう。
僕は人を不幸にする。
「僕には生きる価値なんて無いんだ…」
そう思い始めていた。
「僕は生きている意味のない人間なんだ。」
「僕なんか消えて無くなった方がいい。」
感情の失くなった僕が唯一創り出した感情は、
「死にたい…。」
だった。
そして僕は、自殺する方法を探し始める…
つづく…
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