蛇の道は蛇、気晴らしが大事という話 職人パパが、娘と難関私立小受験に挑戦した話 第7話
お受験での、洋服の話。
紺色のスーツのママに、紺色のベスト&半ズボンの男子、
または、
白ブラウスに紺色のジャンパースカートの女の子、
というのが、この世界の定番。
デパートの高級子ども服売り場には、
専用のコーナーもある。
幼児教室に通うときにも、
その服装に慣れておく、
という意味と、
この服装になったら、
「お勉強」の時間だ!とスィッチを入れるために、
着せるママも多い。
夏には、女の子は、水色のワンピース。
男子は、白のラルフローレンのポロシャツに、紺の半ズボン。
靴は、黒の革靴、もしくは、黒の運動靴。
服装で、受験の合否が決まるわけは、ない!
断じてない!と、幼児教室の先生も、先輩ママも言う。
うわさによれば、赤いTシャツに緑の半ズボンで、
あの慶應幼稚舎に合格したつわものが、いるとか、いないとか。
ところが、
そもそも、コンサバ(保守的)が好きなママが多いのと、
校風に合わせられる、ということをアピールする意味もこめて、
紺色で無難に、悪目立ちしたくない、というのも、親心。
安心なのは、ネイビーよね、という気持ちになる。
もちろん、我が家のあ~ちゃんも
ご他聞にもれず、ネイビーなジャンパースカートに、
襟元に小花の刺繍のあるブラウスや、ソックスで、
それらしい装いを心がけていた。
受験本番から、さかのぼること、半年。
やや、暑くなりかけた6月の初旬のこと。
お教室の先生から、知る人ぞ知る、看板のない
お受験服オーダーのアトリエが、紹介された。
もちろん、強制ではない。
しかし、やんわりではあるが、
「こちらの、お洋服で、不合格をいただいた方は、あまりいませんね。
やはり、既製品では、なかなか、そのお子さんの個性が光らないというか・・・」
という、お話なのだ。
「ご希望の方は、わたくしまで、お声をかけてくださいね。
ご紹介させていただきますので」
授業のあとに、ママたちが、殺到したのは、言うまでもない。
そして、わたしも、お願いいたしました、
値段も、どんなものかも、わからないままに。
しばらくすると、先生経由で、
アトリエのマダムのご都合に合わせたスケジュールが知らされ、
ママ&子どもは、そのアトリエにそれぞれ個別に、うかがうことになる。
お教室の先生の付き添い付きで。
いざ、アトリエへ。
高級住宅街の中の、まさに「邸宅」。
もちろん、看板もないし、ここがお受験服のアトリエなんて、
まったくわからない。
お手伝いさんが重々しいデコラティブなドアを開けてくれた。
「こちらで、ございます」と通された部屋には、
50代半ばだろうか、ふくよかな、上品なマダムが、
メジャーを首にかけて、待っていてくれた。
部屋の周りには、こんなにもタータンチェックの種類って、あるのか?
と驚くほどの、グレイ系から、おなじみに赤系、緑&紺系、
それに、日本では、あまり見かけないタータンチェックもある。
木製の重厚な箱にカルテのような書類が、入っている。
幼児教室の先生が、マダムに、
あ~ちゃんの志望校はどこか?
どのようなことが得意な子か?などの説明をしている。
「わかりました。
それでは、○○小学校は、ブラウスに、ベストとキュロットスカート、
○○初等部は、お着替えがしやすい、脇下ファスナーのワンピースとカーディガン、
それに、○○の2次の親子面接用のジャンパースカート」が
必要となってまいりますね」
まだ、志望校の確定もできていない、新米・お受験ママのわたしは、
「はぁ~、そうですか」と、言うばかり。
そもそも、値段は、いくらなのかしら?
オーダーなんて・・・。
とドキドキしながらも、聞ける雰囲気ではなく。
「じゃあ、まずは、採寸をいたしましょう。
あ~ちゃん、こちらに、いらして!」
と、マダム。
「日に焼けて、ハツラツとした雰囲気で、
ほんと、○○初等部のお好みのタイプですね」
と、誉めていただき、
お好みのタイプ、ってあるんだなぁ、でも、それだけで合格ではないけど、
そう言われれば、悪い気はしなくて、
いやいや、これは、営業トークなのか?
そんなことは、しないかしら?と疑心暗鬼になってみたり。
紺色のベストなんて、どこにでもありそうだし、
ここで、わざわざ作っていただかなくても・・・
という気持ちが首をもたげてきたところ、
マダムが、まるで、見透かすかのように、
「紺色のベストというのも、編地の細かさ、このラインの入りかた、
襟ぐりと首のバランスなど、そのお子さんにぴったりのものは、ひとつなんですよ。
ここでは、ひとつひとつ、最適なものを編みますので、ご安心ください。
あ~ちゃんの場合、しっかりしたお顔立ちなので、
ラインはやや太めで、でも、編地はこのゲージで、品よく仕上げましょう。
そでの部分は少し出して、肩のここまでくるのが、ベストでしょう」
そこまで、ベストについて考えたこと、なかったなぁ・・・と
圧倒されていると、マダムは、さらに続けた。
「本日の採寸から、成長を計算して、
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