母に抱く殺意 第5章

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父の容態は変わらず、桜の季節を迎え、父は60歳になった

伯母と叔母が父の誕生日を祝う為、わざわざ遠方から駆けつけ、父を車いすに載せて、院内を散歩したり、父とケーキを囲んでみんなで記念撮影をした

寂しい病室が賑やかで明るくなり、伯母たちがいると思うと、肩の荷が下りた

母が電話しても出ないことが多く、連絡もこないことに伯母たちは苛立ちを感じていた

母は、ストレスが溜まるからと、スポーツジムに通い始め、後見人の手続きが始まったことで、連絡が取れるようやっと携帯を持った

そんな母の行動がさらに、伯母たちを苛立たせていた

伯母たちは、母と話をしようと、一緒に実家に立ち寄ったが、母は犬を散歩に連れて行こうと、何も言わず伯母たちを振りきろうとする

挨拶もない母の態度に、伯母たちが母の行く手を遮り、伯母が母の胸ぐらを掴んだ

「何でいつもそんな態度なの??弟があんなになってしまったのに、もっと真剣に見舞いとかしないの?こっちは、心配しているのに、連絡もしてこないで!!」

胸ぐらを掴んだ伯母の手がブルブル震えていた

叔母も、何かを言っていたが、私は泣きそうになり見ているだけしか出来なかった……

たまたま通りがかった男性が、「そんなことしちゃダメだよ、仲よくしなきゃ!!」と伯母と母の間に立ちふさがり仲裁に入った

男性は私に向かって、「止めなきゃダメじゃん!」と言ったが、伯母たちが悪いとは思わなかったし、止める気になどなれるわけもない

結局、男性が母に向こうに行くように言い立ち去り、伯母たちも冷静になり、ぼそっとつぶやく

「いつも何も言わないのよね、都合が悪くなると逃げるばかりで何にも解決しないんだから……」

伯母たちの人生は、人と争うことなどきっとなかっただろう

私より長い付き合いの伯母の言葉には積年の思いが詰まっていた

そんな伯母たちを怒り心頭にさせ、胸ぐらを掴ませるまでさせたのは、母が悪い、明らかにわかった


父の入院が長引くにつれ、姉も母も見舞いが少なくなっていき、看護師さんと会うことが多い私が父の日用品の補充や洗濯を行うことがさらに増えた

オムツなど買った費用を負担することも多かった

父の見舞いに行き、洗面所でタオルを温水で濡らし、顔、手、足を拭き、ヘッドフォンで、父の音楽を聞かせるのが日課になり、本で見た手のつぼを押して、父の反応に一喜一憂した


その日、たまたま実家に立ち寄ったら、母が趣味で作った造花の額縁が増えており、時間をかけて母親が作ったようだった

珍しく母の親戚も来ていて、私は軽く挨拶をしたが、もうちょっと母に気を遣えと言わんばかりに説教を始めた

母の素行も、事情も知らない親戚に口を出されカッとなって、言葉を遮るように母が作った造花の額縁を壁に叩きつけて割った

何枚も、何枚も、手当たり次第

「こんなもの作る暇があったら、父さんの世話をしろよ!!」

自分でも声が震えているのがわかった

割るものがなくなるまで、叩き割った

粉々に砕け散ったガラスの破片は、その時の自分の心を表しているようだった

母は、立ち尽くして見ていた

親戚は私に呆れて、やっぱり問題のある娘なのね、こんな娘じゃ母が苦労するわけだわと、母に同情していた

実家の帰り、病院の帰り、車で一人きりになるとき、音楽を大音量にして泣くのが、日常になってしまっていた

そして、目薬を差して、充血を誤魔化して、夫にも涙を見せなかった

泣いてしまったら、もう止めどもなく感情が溢れて母にも父にも対峙することが出来なくなりそうだった



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母に抱く殺意 第6章

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