母に抱く殺意 第6章
リハビリ専門の病院に転院して数か月、また転院するように主治医から話が出た
母も私も別々に探し始めたが、母がまた独断で決め、転院する日も看護師さんから聞く有様だった
実家からも私の家からも遠く、母親一人で選んだとは思えなかった
あの毎朝の電話の相手が住んでいるらしい地域だと姉に聞いた
今まで入院していた病院は、母と姉と私で意見をまとめるのが病院との決まりだったが、その病院では、母一人が決定権を持ち、娘たちの意見は聞かないという方針で連絡先を聞かれることはなかった
母はそれを狙ったのだ
その病院は介護専門の病院で独特の臭いが漂っていて、見舞い客も少なく、同じ病室の見舞客と会うことがなかった
顔が汚れていてもそのままだったり、台の上が汚れていたり、衛生的に綺麗とはいえなかった
こんな病院にいたら、確実に父の寿命が縮まる…早く後見人が決定して、転院をさせたい、転院後すぐにそう思った
遠いことを理由に、もっと母と姉は見舞いに来ないだろう……
家族の為に生きてきた父がこんな扱いを受けることが、納得いかなかった
そして、転院してから数か月近く経ち、父の後見人が会計士さんで決まった
その通知の封書を父のそばで読んだ
「これで、もうお父さんのことを管理してくれる人が出来たよ」
とても良い報告が出来て久々に嬉しかった
その後、父は理由もわからないまま個室に移され、お尻に出来た褥瘡がひどくなっていたようだった
褥瘡のケアをする看護師2人が「くさくてたまらん…」と言って、父の病室を出る瞬間を目撃してしまった
バツが悪そうに、看護師は目を伏せて通り過ぎた
“褥瘡がひどくなるなんて、体位をまめに変えてくれないからじゃない!”そう言いたかったが、父の扱いが悪くなることが心配で我慢するしかなかった
父が良い扱いを受けていないことが、病室の状態を見れば明らかだった
そして、私は30歳の誕生日を迎えた
父に会いに行き、「歳とったよ~!」と報告して、父の傍でケーキを食べた
父の様子は変わらずだったが、それでも生きているだけで良かった
私の誕生日が過ぎて間もなく、父の様子が良くないことに気付いた
顔色も反応も良くなかった
心配になり、看護師に自分の連絡先を書いたメモを渡そうとしたら、あからさまに迷惑そうな顔をした
「受け取れません」と一言。
「母が仕事で連絡取れない時が多々あるので、念のため持っていてもらえますか?」
看護師さんは私のしつこさに、
「わかりました。一応、お預かりしますね」と事務的に言って、立ち去った
いつもより反応が鈍い父に、
「お父さん、もう頑張らなくていいよ。この状態で生きているのも辛いでしょう…後見人も決まっているし、大丈夫だよ」
泣きながら、そう話した
活動的な父が半年以上寝たきり、この状態で生き続けることは果たして父は幸せなのだろうか……いつしかそう思うようになっていた
生きていてほしいと願うのは、娘のエゴだろうか?
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