カナダの履歴書の書き方、働くことへの考え方を変えた2枚
私がワーキングホリデービザではじめに目指したのは、ニューファンドランド州(NL)St. John'sというカナダ大西洋側にある都市だった。もともと学校に通う予算は持っていなかったのですぐ働くか、無料で受けられる講座があれば受けたいと思っていた。
都会で仕事がありそうなトロントからスタートすることも考えたが、NLにいるカナダの友人が、自分が受けた無料の講座がとてもよくて、私にも受講のチャンスがあるかもしれないという。
それはWISE(Women Interested in Successful Employment) というNL州が予算をバックアップして女性の就職、再就職を促す3ヶ月の講座だった。後で知ることになるがカナダで雇用保険をもらっている人を対象としている講座だったが、そんなことは知らない私は現地に着いたその足で面接を受けに行った。
友人が同じ講座を受けていたこと、私の面接をしてくれたスタッフ2人が偶然にも日本に来たことがあり話が盛り上がったことがよかったのか、とにかくありがたいことに私はその講座に参加できることになった。
(講座会場の周辺。銀行、パン屋さん、KFC。ちょっと歩けば大きなモールがあった)
はじめの2ヶ月はCareer Planning Programでこれまでの人生を振り返り価値観の掘り起こしをする作業だった。参加者は15人ほどで20代〜60代と幅広く様々な人が参加していた。朝一人ずつ自分の話をする時間があり、日々の出来事や考え方を聞いているうちにお互い心開くようになった。自分では分からなかった特徴や長所、苦手とすることなどを率直に話した。ワークシートに想いを書き出したり、TEDのビデオを見たり、virtues words (訳が難しいけど英語圏で言う徳)を使ったトレーニングをした。
(教室の中の様子。この日は自分のDream Map 宝地図をつくるために素材を探しているところ)
メンバーとも慣れて来たところで次はJob Search Strategies Programが始まった。具体的に自分のキャリアをどうつくってゆくのか、情報の集め方、ネットワーキング、ボランティアなどのアプローチ、最終的には履歴書の書き方、面接の受け方を具体的に指導してもらった。
カナダの履歴書
中でも私が一番教えてもらって嬉しくて、それだけじゃなく心理的に自分の生き方とか働き方に対する考え方に影響を与えたのがカナダの履歴書(以下、レジュメ)だった。
(私が書き方を習ったレジュメの例)
例を見てもらえれば分かる通り、日本の履歴書と全く違う。
まず、写真がない
性別は書かない
生年月日、年齢も書かない
見ているのはレジュメに書いてある実績と経験。その潔さがすごくいいなと思った。
考えてみれば私が日本で就職活動をしているとき、「就職に効くメイクで履歴書用写真」とか言って、たっかい値段を払って写真室でメイク+写真を撮ったりしていたのはあれは何だったのか。
就職活動以外では使わなかった真っ黒バッグと真っ黒パンプス、真っ黒スーツはなんだったのか。そもそもそんな恰好をする必要があったんだろうか。
もしいま就職活動が上手く行かなくて悩んでいる大学生がいたら、大声で言いたい。
日本の常識は世界の非常識。日本で見つからなければ海外に行けばいい。海外に行かなくてもインターネット上で仕事ができるかもしれない。黒スーツ、黒バッグ、黒パンプスで行かなきゃ面接をしないと企業がいうのなら、私は逆にその企業の将来は危ないんじゃないかと思う。第一そんなリクルートスーツが”常識”とされたのはいつからなのか。50年前にはなかったんじゃない、つい最近のことでしょう、それならまたすぐ変わってゆくでしょう。
新しいレジュメの書き方と考え方
もう一つ、私が嬉しかったのは新しいレジュメの書き方を学んだことだった。
一応、私はカナダに来てすぐに仕事が探せるように事前にレジュメを用意して来てはいた。けれどもそれは経歴だけを時系列に並べたもので日本の履歴書を英文に翻訳しただけのものだった。
対して私がこの講座で学んだのは数種類ある書き方の中でもFunctional Resumeという書き方だった。時系列に経歴を書くのではなく、応募する仕事によってその仕事の要素に関連する実績をまず書く書き方だ。
(わかりやすい説明があったので添付します↓)
例えばツアーガイドに応募するのであればそれに関連する「旅行業界」「接客」の二つの項目をつくり、その実績を書いてゆく。「接客」の中では例えばカフェでアルバイトした経験を入れてもいい。できるだけ具体的な数字を入れると説得力が増す。
このレジュメの書き方は私にぴったりだった。私はこれまで働いた会社の数が多い。別に途中でやめたわけではなく1年契約の仕事だったり、一定期間の国際交流の仕事だったりするので自分としては自分の気持ちを貫いた経歴だったけれども、保守的なところに面接に行くとあからさまに変な顔をされることがあった。
某都道府県の仕事の面接の時、50代の男性が私の履歴書を見て

といぶかしげな顔をされたことがある。
と私は心の中でつぶやいた。
この方法でレジュメをつくってゆくと、自分の経歴に自信が持てるようになった。例えば私の場合だと「これまで○○カ国を訪れ、国際的な経験を積んでいる」とか「カナダと日本の、様々な環境で就業経験がある」とかそういったことを一番上に書くことが出来る。自分が一番話したくなるような、そして採用する人にも「おやっ」と興味を持ってもらえるような自分を表現する文を一番上に書くことができる。(後にプリンスエドワード島でその一文が会話のきっかけとなりマネージャーと意気投合し、仕事を得ることができた)
日本の職務経歴書やエントリーシートもある程度の自由があると思うけれども、はじめに見る履歴書にそういったことが柔軟に書くことができるのだ。写真がなく年齢性別がわからない分、先入観を持たずに書いてある経験、実績から人柄とか、考え方とかが見えるようになっていると思う。
さらに丁寧な印象を持ってもらおうとすると、レジュメに加えてカバーレターやリフェレンスを提出する。特にリフェレンスは自分の知り合いに推薦レターを書いてもらったり、面接先から連絡があったときに働きぶりや人柄を話してもらうので、ちゃんと人間性を見ての採用方法だと思う。
いまの心境
新しい書き方を勉強したとはいえ、私はまだレジュメを自分一人で書けるわけじゃない。毎回ネイティブにチェックしてもらわないとスペルや文法が心配だ。だから技術的なところはまだ勉強中だ。
でもレジュメを書く時の考え方を知ったおかげで、人生とか仕事に対する考え方が大きく変わった。
簡単に言えば、
ってこと。
日本式履歴書だと、自分でもこの1枚の紙に書いてあることが私の人生をこれっぽっちをも語っている気がしなかった。
レジュメの場合は少なくとも自分がどういう思いで仕事をして来たかを書くことができて、「コミュニケーション」とか「英語を使った仕事」とか切り口別で考えると人に語りたくなるような経験を書くことができた。
振り返れば・・・
私は大学を2004年に卒業した。就いた仕事も経済が停滞したことに巻き込まれた気持ちもしていた。例えば恨み節を言うと、私が新卒で入社した会社は私が入社した年とその前の年だけ正社員を取らず、契約社員というかたちで入社した。正社員と同じ仕事をしたけれども給与が明らかに安かった。そして次の年からまた正社員採用を再開した。私はあと何年いれば正社員になれるかわからない。私はなんじゃそら、と思った。
でも私はまだいい方で、仕事自体断念した友だちもいる。私は国際学部だったので、まわりにフライトアテンダント希望の人がけっこういた。記憶が正しければ、確か私達の年は国内航空会社は全くフライトアテンダントを採用しなかった。友人の一人は仕方なく地上職につき、その後も念願の仕事に就くことはなかった。一方で留学していたため一年遅れて就職活動した別の友人は、次の年には採用活動が再開し、見事フライトアテンダントとして採用された。
就職活動する年の景気によって仕事が、待遇がちがってくることに理不尽だと感じていた。そして新卒採用という1回だけの大きなチャンスという制度自体にも首をかしげていた。
でももう、いまは吹っ切れている。
このレジュメのような書き方がSNS上で広がって来た。LinkedInとか、日本であればWantedlyとか、人のつながりが推薦になり、これまでの経験を「おもしろいじゃん」と言ってもらえやすい環境ができてきたように思う。
日本の従来のフォーマットが決まった履歴書みたいにどこの学校に行って、どこの会社で勤めて、こんな資格を持ってて、なんて面白くない。
こんな友人がいて推薦してくれて、こういった経験をしてきて、こういった実績があり、こんなことを考えている人です、の方がずっと面白い。
2枚のレジュメやLikedInやWantedlyの方が
「これが私が歩んで来た道よ!」
ってちゃんと胸を張って言える気がする。
これからの新しい流れに心から期待している。
結局、履歴書でもレジュメでも、応募者はどんな切り口で自分を表現するか、採用者はどんな方向からその人を見るのかの違いだけなのだ。
一人の人間は多様な面を持っている。できるだけいろんな面から光を当てて立体的に人をちゃんとみてほしい。歯車の一つになる「労働力」ではなく「人という財産」、「これから一緒に働くかもしれない仲間」という目で見てほしい。
私はどんな学校を出て、どんな会社で勤めたかを中心に採用を決める会社とは今後関わることはないだろう。
どんな人と友人関係があって、どんな経験をしてきて、どんな実績があってという目線で見てくれる人と働いてゆきたい。時間を共有したい。
そんな考え方を教えてくれたNL州とWISEに、ありがとう。
(NL州St. John's中心部の町並み)
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