【第17話】『奇跡のおばちゃん』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
限界に挑戦しなければ意味が無い。
ここで本気で限界に挑まなければ、
旅が終わったところで、僕は何も変わらない。
日本海まで行ったという、名ばかりの達成感は感じるだろうが、
実際に僕は何も変わらない。
僕は絶対に変わらなきゃならないんだ!
心配を掛けている家族のために。
応援をしてくれている友達ために。
逝ってしまったあいつらのために。
傷付けてしまった彼女のために。
背中を押してくれた人たちのために。
自信を失ってしまった僕自身のために。
そして、これらはすべて、
未来を生きていくために。
さぁ、行こう!
ゴールへ。
限界という、僕だけのゴールへ。
おやじの生き方…
時刻は朝9時。
入念にストレッチをし、両足にサポーター、
テーピング、ホッカイロを装着し、準備は万端。
僕:「お世話になりました!ありがとうございました!」
おやじ:「おお、行くのか!」
今日もおやじは相変わらず全く気の使わないおやじだ。
「トンネル通ってけ!」
「新しく出来たトンネルだから!」
おやじはそう言った。
「分かりました!ありがとうございます!」
おやじは、「頑張れ!」など、気の利いた言葉は言わない。
僕が客だからって、全く気を使わない。
おやじはおやじだった。
このおやじと話していて思った。
「気を使う」と「思いやり」は違う。
僕はいつも、人の顔色を伺い、
嫌な思いをさせないようにと、常に気を使ってきた。
相手の反応を予測し、わざと言葉や態度を選んできた。
これが思いやりだと思っていた。
でも、違うと思う。
相手に合わすのは思いやりじゃない。
自分の気持ちを素直に表現することが、
思いやりなんだと思う。
本当は人に合わせる必要なんてない。
自分が出来る、自分なりの表現の仕方で、正直に相手に接する。
素直な気持ちで相手のことを思う。
これが思いやりなんだと思う。
おやじは、気は使わないけど、
思いやりのある人なんだと思った。
誰に対しても変わらぬ接し方で、
常に自分という人間が存在している。
僕も、そんな人間になりたいよ。
そう思った。
おやじ!ありがとう!!
そして僕は、
今日もスタートを切った。
日本海まで、道は一本。
あの山の向こうに日本海がある。
目の前の道をただひたすら前に進むだけだ。
余計なことは考えなくていい。
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