【最終話】『僕の宝物』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
11日目。最終日…
ピピピッピピピッ
携帯のアラームの音に、一瞬にして眠りから覚めた。
時刻は朝5:30。
昨晩、23:30くらいに睡眠薬を飲んだにも関わらず、頭はスッとしていた。
眠ることなんかよりも大切なことがある。
今日は旅の最終日。
日本海はもう目の前。
僕の旅は終わる。
最後に朝の日本海が見たいんだ!
僕はいつも通り、足にテーピングを巻き、出発の準備を整えた。
足に出来たどデカいマメが、昨日の過酷さを物語っていた。
しかし、身体は思った以上に軽い。
歩き終えてからまだ8時間程しか経っていないのに…。
ほんの8時間前は、もう一歩も歩けないと思っていたのに…。
人間の回復力は凄まじい。
いや、これが温泉の効力なのか…?
何はともあれ、つくづくこのひすいの湯に辿り着けて良かったと思う。
温泉があり、寝るところがある。
ここの存在を知らなかったら、僕は今頃どうなっていたのだろう…?
おばちゃん!本当にありがとう!!
身なりの準備は整った。
しかし、なかなか出発出来なかった。
日本海に着いたら、僕の旅は終わってしまう…。
僕はまた、凄惨な日常生活に戻る。
「お前は変わったか?」
「お前は強くなったか?」
頭の中でもう一人の自分が問いかけてくる。
僕が出せた答えは…
「分からない。」
だった。
旅を終え、日常生活に戻っても耐えられるだろうか?
僕は、これからも生きていけるだろうか?
もしかするとこの旅は、「死に場所」を探しに来たのではなく、
「逃げ場所」を探しに来たのかもしれない。
何も出来ないこの僕に、
まだ少し、生きていられる正当な理由を付けるために、やったことなのかもしれない。
生きている時間稼ぎのために。
もしそうだとしても、もうタイムリミットだ。
このまま旅を続ける訳にはいかない。
家族、友達、応援してくれたすべての人たちに会いに行かなければ。
ちゃんと感謝を伝えなければ。
「帰ろう!」
「家に帰ろう!」
「この旅を終わらせよう。」
そう思った。
いざ、日本海へ!!
時刻は6:30。
僕は出発した。
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