第一章:目覚めない夢 vol,4

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前編: 第一章:目覚めない夢 vol,3
後編: 第一章:目覚めない夢 vol,5


『ユキに会える。』


ただそれだけを思って、アクセルを踏み続けた。この国の高速道路は自分の性に合っている。スピードを出すことが許され、何よりもそれによって自分の運転スキルを試せるような環境にあるからだ。

チャンはアクセルを更に踏んだ。暗闇に映る街頭の灯りの流れていくスピードが早くなる。


この10年、ユキに会いたくてたまらなかった。そして、この10年で起きた全てのことをユキに話してぶちまけたいと思っていた。

彼女がそれをどう受け取るかは別として、きっとユキなら、自分の10年を分かってくれるだろう。

どれだけ辛かったか。どれだけ私が大変な想いをしたか。そして、今も同じくどれだけ辛いのか…。

ユキに話したくてたまらなかった。アクセルはどんどん深く踏まれていく。


思えば、この10年間は、最悪の日々だった。自分が世界で最も不幸な人間であると信じる条件があまりにも多すぎた10年間だった。

あげればキリがない。でも、自分は何も悪くない、断じて悪くない。全て悪いのはあいつらなんだ。

あいつらのせいで、私の人生はめちゃくちゃになった。取り返しがつかないことになったんだ。それをユキに知らせたい。

自分の人生がどれだけめちゃくちゃなことになったのか、早く知らせたくてたまらない。


チャンの頭の中では、既にユキに自分のたまった鬱憤をぶちまける想像でいっぱいだった。


『わたしは何も悪くない、そうよ、わたしは何も』



アクセルは、深く沈んだまま、古いホンダの車が夜中のハイウェイをかっとばしていく。




『人って、10年でこんなに変わるの…?』


それ以外の感想が出ないほど、立ち尽くしたのは、ドアをあけたチャンを見た時だった。それは決して、悲観的な感想ではないのだけど、感動の再会というものとはほど遠い瞬間だった。

ユキが描いていたチャンとは違い、目の前に立っているのは自分よりも少し身長が小さくて、ジーンズのショートパンツに、上はグレーのパーカーを着て、そのパーカーのフードを深く被ったチャンの姿だった。

身長はおそらく、会っていないこの10年間の間でユキがチャンを抜いたのだろう。それは容易に受け入れられたが、化粧っ気のない顔に深く被ったフードからちょこっと見えるベリーショートの髪型は、どこからどう見ても幼少期の頃のチャンとは遠い存在だった。


「ひさしぶり。」


「ひさしぶり。」


てっきり、感動の再会でハグでもするのかと思いきや、二人ともぎこちなく互いを観察している。

やがて、チャンの車を誘導しに下へ行った叔父のリーが戻って来て、そのぎこちない空気はもっとぎこちなくなった。

それもそのはずだ。ユキはチャンと10年ぶりに会うのだが、リーもまた同じくらい、チャンと会っていなかったからだ。

いくら連絡を取っているとは言え、長い間は慣れて暮らした実の娘を、このみすぼらしいアパートに連れてくるのは気が引けたのだろう。


立ちすくむ二人の横を通り過ぎて、リーがお昼ごはんの支度をはじめた。


「身長伸びたね。今何センチ?」

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