高木教育センターのありふれた日々(3)

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「模試の点数など、どうでもいい」

 と言いながら、真剣に勉強をする。ところが、偽者は同じことを言いながら勉強をサボる言い訳に使う。同じことを言いながら、行動が違ってくる。

  ひばりさんのモノマネをする人と、本物のひばりさんの違いも紙一重。姿を見ないで聞いていたらよく似ている。でも、何かが違う。この「何か」が紙一重の大切な違い。料理でもファミレスと三ツ星レストランの違いは、ほんの少し。そこが決定的に重要なのだ。

  どこが違うかというと、人間としての生き方が根本的に違う。たとえば、私が学力アップの方法を生徒に話すときの生徒の典型的な反応は2つ。一つは、

「要するに、威張りたいんだ」

 というものと、

「なるほど。やってみます」

 というもの。どちらの成績が伸びていくのか、言うまでもない。

 やってみる子も、時間もエネルギーも全て注いでやる子と、形だけマネる子に分かれる。結局、話したことを忠実にやってみる子は、全体の5%ほどだろうか。

 なぜ95%の子は挫折するのかというと、本気度が欠如している。

「そんなことはない。ウチの子は真剣です」

 と言われる方が多いが、詳しく尋ねると「寝て、食べて、風呂に入る以外は勉強している」かというと違う。適当に遊び、生徒会や部活もやり、残った時間で勉強しているだけ。これでは、全てを賭けている生徒に勝てるチャンスは少ない。

「そんなことをしたら、健全な成長ができない。バランスこそ大切」

 と言われる人が多いが、誰に吹き込まれたのだろう。アスリートは運動ばかりやり、パン屋さんはパンばかり作っている。そういう人は不健全なのだろうか。難関校に合格するような子は、全ての時間やエネルギーを勉強にかける子も多い。そういう子は異常性格になってしまうのだろうか。

 現実は、そうなっていない。

 

第二十五章

「ガリレオの湯川先生」

  「ガリレオ」の湯川先生が、ひらめいた時にところ構わずに書き付ける数式。

「あんな風に複雑な数式を自由に操れたらカッコイイなぁ・・・・」

  小さい頃から、そんな理系のロボット博士にあこがれていた。だから、たとえ英語を身につけても満足できなかった。

  もちろん、私はTV番組が設定するような天才博士にはなれない。でも、ちょっとでもそんなレベルの数学を身につけたかった。それで、文系の英語講師をしながら数学Ⅲを勉強し始めた。でも、それだけでは勉強を始めるパワーが身につかなかった。しかし、そんな時にA子ちゃんが塾に来てくれた。

 英語も同じことで、バンフリートさん、ブレアーさん、エリック、アランなどの助けがなかったら英検1級までたどり着けなかったと思う。そもそもアメリカに行かせてくれた亡くなった父の助けがなかったら留学など思いつかなかった。

  A子ちゃんが、あんなに良い子に育ったのは、生命保険を解約してでも大学に送り出そうとしたA子ちゃんの母親の思いやりのせいだと知っていた。

 

  若い頃は視野が狭いために

「名大に合格したのも、英検1級に合格したのも、みんな自分の努力のおかげ」

  と傲慢に考えていた。しかし、自分が親になって子供を育ててみてよく分かった。

「自分ひとりでは何もできなかった」

  そのおかげで、全国の難関大をめざす受験生の背中を押すことが出来る学力が身についた。数学の授業が終わって白板の微積分やベクトル、数列の数式を見て感慨にふけることがある。

「これ、自分が書いたんだよなぁ」

  高校生の頃に途方に暮れた数式だ。

 

   今度は私が子供たちを支えて、塾生の子の夢をかなえる番だ。外国語が自由に使える楽しさを教えてやりたい。数式を自由に操り、この世界をよりよく理解できる楽しさを教えてやりたい。

 

  四日市高校のような三重県一の県立ナンバーワンの進学校でも、北勢中学校に勧誘の手を伸ばしている。2年連続1名しか進学していないからだ。この異常事態を放置できないのは少子化のせい。県立高校でも定員割れの高校は統廃合の波に襲われる。

  近所の私立高校の進路指導の先生は正直だから、塾にみえて

「絶対評価の調査書など合否の参考にするわけないでしょう。ただ、そう言わないと中学校の授業が崩壊しますからね」

 と笑ってみえた。

 自分が高校の責任者だと考えてほしい。どんな生徒が欲しいですか?生徒が集まる一番の理由はなんでしょう。東大や京大を見たら分かる。優秀な生徒が多いからですよね。

 まさか、本気で

「調査書にある体育も家庭も美術も頑張ります」

 って信じてませんよね。進学校がテニスボーイを欲しがるわけがない。要らない。もちろん、体育会系で生徒募集をする工業、商業、私立系は別ですよ。

 欲しいのは、「英語」「数学」が出来る生徒。特に、最近は理系が人気なので「

「数学ができる生徒が欲しい!!」

 と各高校は存続を賭けて血眼と言っていいほどの熱心さです。私たち、塾講師、予備校講師も同じこと。

「英語が使えて、数式を自由に操れる。そんな生徒が欲しい」

 のどから手が出るほど欲しいのです。

第二十六章

「悪魔の銀行」

  私は塾をアパートの一室から始めた。生徒数が多くなり、自転車の置き場もなくなり近所に騒音などで迷惑もかけ、塾を建てる必要に迫られた。それで、銀行に相談した。20代の若造に、土地や建物のための資金があるわけがなかった。

  しかし、銀行によっては

「はっきり言わせてもらいますが、当行は大手塾を勝ち組、個人塾は負け組と思っています(融資などできるわけがないでしょう)」

 と、けんもほろろの対応だった。それも、応接間などに通してくれるわけもないのでお客も従業員もみんなの聞こえる状態で宣告された。私は、あの屈辱は一生忘れない。人間ができていないので、あれ以来知り合いや塾生にその銀行の対応の悪さを言い続けている。

 いつか潰れればいいと思っている。

 

 また、結婚する時も交際していた女性の母親から

「なんで名古屋大学まで出てアパートの一室の塾なんですか?」

 と罵倒された。教師になれば結婚させてやってもいいと言われた。小さなアパートの一室を借りている個人塾を世間ではどう思い、どう扱うかを骨身に染みるほど思い知らされた。資金の一助になるかもしれないと、名古屋の塾や予備校などに昼間だけの非常勤講師の職を求めて履歴書を送っても梨のつぶてだった。日本では、英検や通訳ガイドの国家試験のような公的資格のない講師は信用がなかった。

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