高木教育センターのありふれた日々(3)

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「生徒との直接のメルアド交換やメールのやり取りは禁止」

 という通達が講師との契約書に書かれていることをご存知だろうか。塾側は、

「生徒と講師が直接仲良くなったら、生徒をつれて独立されてしまう」

 というリスクがあり、講師の方にとっては

「労働時間外に生徒から質問がきては困る」

 という労働協約上の問題が発生するからだ。

「生徒と親しくしてはならん」

  これが大手の原則なのだ。

 

 私の塾は個人塾だから、5科目指導もすれば(高校生は英語と数学)、メールや写メでの質問は無制限かつ365日24時間対応だ。こんなことは、大規模塾や予備校では不可能なのだ。

 

 私は大手が嫌いだ。14年間働いてよく分かった。経営の論理ばかりが先立ち、生徒目線の需要に応えていない。左翼も嫌いだ。労働条件(主にお金)ばかり主張して、

「講師はみんな同じ労働条件。労働時間外の搾取は許さない」

 などと言う。一見正しい主張に聞こえるが、要するに能力がある講師の存在を許さない。みんなと同じ条件以上で働くな。生徒の質問に答えられなくなってしまうではないか。

 

 中身で勝負できないとなると、金にモノを言わせてタレントを使ったCMや、駅前に大きなビルを建てて生徒や保護者にアピールしようとする。そして、法外な授業料を要求する。このビジネスモデルは葬り去らなければならない。暴走族講師や、ヤンキー講師など要らない。講師は芸能人ではないのだ。

 

  自分の塾が小さい頃は

「大規模塾の講師という肩書きで信用を得よう」

  という打算があった。父の靴屋は、私が大学生の頃に近所にイオンが進出してそちらの中にある靴屋に押され気味だった。大手を利用しないと生き残れないという現実は知っていた。

  それだけではないだろうが、私の塾は順調で

「ボクは父を追い越したかも」

  と傲慢に考えていた頃があった。しかし、青春時代を戦争でつぶされてしまった父。私のようにバツイチになって子供たちに可愛そうな思いをさせずに頑張った父にはかなわないと思う。生きているうちに、そういう思いを伝えておきたかった。

 

  大規模校の内部に入って指導してみたら、最低だと思った。しかし、個人塾が良いかというと私は「イエス」と言えない。塾を始めてから、塾の入り口は壊されるし、個別訪問をしながら私の塾は閉鎖されると触れ回るし、いたずら電話はかかるし、明らかに近所の塾のいやがらせ。

  ある生徒が入塾して翌月やめたので謎だったが、

「先生、あの子はA塾の息子だよ。スパイだよ」

  と言う話もあった。いくら生活のためとはいえ、やってはいけないことだろう。

 

  私は大規模塾とも個人塾の塾長とも関わりあいたくないので、業界団体には加わらない。今はネット社会なので、業界団体に入らなくても情報はいくらも手に入る。横並びは生徒の方には良くない。

  大人の事情を考えずに、生徒目線に立てば講師と生徒の間を一切遮断んする大規模校のやり方はムリがある。だからといって、ある個人塾のように寒いから授業中にウドンを食べているのも親しさのはき違いだろう。

  私は、誰とも違うやり方を始めた時に倒産を覚悟した。誰とも違うということは、誰にも理解されないリスクがあるからだ。しかし、やってみたら地元の高学力の生徒だけでなく北海道から鹿児島まで(通信生)支持者が集まってもらえた。

 

第二十三章

「めいなんランチ」 

  当時、名古屋大学の東山キャンパスの南の端に「名南喫茶」という小さな喫茶店が設置されていた。

「メイナンにいるから」

 は当時よく使われていた言葉だ。私たちは、くだらないことを楽しく語り合っていた。まさか、そのくだらない生活を支えるために両親が懸命に働いているとは想像もしていなかった。親が子供を支えるのは当たり前と思っていた。

 ところが、父が亡くなった時にトラブルが起こった。姉たちが

「おまえだけ大学に行かせてもらったのだから遺産相続は好きにさせない」

 という。そんな風に思っていたんだ。初めて知った。想像も出来なかった。

 

 だから、Bくんが

「絶対に親には内緒だけど、お婆ちゃんが国立に落ちたても金を出して私立に行かせてくれるって言ってる」

 と言っても驚かない。各家庭でいろいろな事情があるのだろう。息子や孫の希望をかなえてやるために、親やお婆ちゃんが懸命になるのは分かる。自分が親になってから切実に分かるようになってきた。そうやって捻出している月謝を大切に使うのは塾長としての責務だ。

生徒集めのためにタレントを使ったCMに使うわけにはいかない。それが私の矜持であり、決定だ。

 Bくんは、その辺の家庭の事情をよく理解していて

「迷惑をかけられない。何としても国立大に合格したい」

 と言う。

 そんな生徒を指導した後で

「オレを分からせてみいや!」

 みたいな生徒を見ると(今はそんな生徒はいなくなったが)

「この子はBくんと同級生だけど、1000年経っても追いつけない」

 と思う。

ところが、そんな生徒に限って、保護者の方が

「なんとか桑名高校に合格させたい」

 と言う。できるわけがない。この瞬間に塾講師の覚悟が分かる。

「お任せください」

 と言うのはお金のために仕事をしている講師。

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