高木教育センターのありふれた日々(3)

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  塾生である中学生にさえ

「学校の先生は違うこと教えたよ。先生、大丈夫なの?」

  とバカにされる始末だった。

 

 貯金もない、資格もない、仕事は吹けば飛ぶような塾で、結婚もできない状態だった。

「大学に行かせてもらい、アメリカで勉強した結末がこれか・・・・」

 と途方に暮れた27歳だった。人はそういう闇をくぐらないと真剣にはなれないのだろう。結局、親が自分の宅地を担保に入れてくれて銀行の融資を受けられた。そして、猛勉強して英検1級に合格し、結婚もし、昼間の名古屋の仕事も見つかり、順調に塾を始められた。 

  しかし、私は自分に敵対した人を忘れてはいない。味方には10倍のもてなしを。敵には10倍返しを。これが、私のモットーなのだ。織田信長が好きなのだ。

 

  今は通知表は絶対評価で5がいくつ付けられてもいいが、私の頃は相対評価だから上位の7%に入らないと5はもらえなかった。私は北勢中学校を卒業する時、音楽以外は全て5だった。秀才だった。

 しかし、それでも上記のような世間の扱いなのだ。英検1級をとって名古屋の大規模塾で講師をしていても足りない。だから、50代で京大を7回も受けて成績開示をするハメになった。

  こんな片田舎で、絶対評価を使って

「ボクは5科目ともいつも90点を越えている。クラブと勉強を両立している」

  なんてほざく子もいるが、「ふざけんじゃねぇ」と思う。そんなことでは、私以上の屈辱的な扱いを受けるのは目に見えている。私はここまでやっても、ただの無名の田舎の塾講師だ。世間は甘くないぞ。

  そんなキミに融資する銀行などない。アパートの一室の塾さえ維持できない。それは間違いない。だから、私は塾生に365日24時間家庭学習中の質問を受け付けるという破格のサービスを提供している。これが高い合格率を支える理由のひとつだ。

  そうして、

「アイツは近づくとすごい得をする。しかし、敵にまわすと怖いヤツ」

  と思ってもらう。残念だけど、この日本社会はなめられると人間扱いしてもらえない。つまり、生きていけない。私は自己防衛のために、そうしているのであって臆病な銀行員を恨んだりしていない。恨んでいないけれど痛い目は見てもらうしかない。

  こんなヤクザのような姿勢はイヤだなぁ。でも、優しく言うと人扱いしてくれない人が多すぎる。せめて、話合いができる相手には優しくしたい。きつく当たるのは敵だけにしたい。

第二十七章

「浮きこぼれに光を!」

  バブルがはじけて20年くらいになる。あの頃から派遣が広がり、所得格差が叫ばれ、勝ち組と負け組みという言葉が一般に使われるようになった。受験業界でも、落ちこぼれだけでなく浮きこぼれという言葉が広がった。

  以前は平均点が60点と言えば、正規分布の中間層が一番多かった。つまり、60点くらいの子が多かった。ところが、今は90点くらいのグループと30点くらいのグループがいて、その平均値が60点というイメージだ。中間層が極端に減った。

  ここ三重県北部では、四日市高校・桑名高校・川越高校は大学進学率がほぼ100%の進学校。いなべ総合・桑名西高校・朝明高校は就職と進学が入り混じっている。そのため、上位3校は競争が激しく偏差値が高いグループ。下位グループは定員割を起こすこともあり偏差値が分からないくらい低い。

  そして、とうとう貧困の連鎖とさえ言われる状況に突入した。塾などに行かせられるのは親が裕福な場合に限られる。学力上位の子がそのグループに多い。つまり、親の所得が子供の将来に影響を与えると言うのだ。

  塾で受験指導をしていても明らかに2つのグループは違っている。近所の底辺私立校からの問い合わせがあると、私は嫌な予感に襲われる。ご父兄からして礼儀知らず、かつモンスターである例があまりに多いのだ。

  逆に、四日市高校や桑名高校の生徒からの問い合わせの電話で嫌な思いをしたことはない。いわゆる、「親が親なら子も子だ」という傾向はハッキリとある。もちろん、極まれに「鳶が鷹を生んだ」という例もあるだろうから、一応話は聞く。

  授業をすると、ハッキリ分かる。たとえば、試験前だと学校の使用するテキストから出題されるのでその問題集を始める。すると、前列から2番目に座った子が突然こちらを見て

「先生、終わりましたけど」

 と言う。これで何事が起こったのか分かりますか?こちらは、何の科目のどのテキストを終わったのかも分からないのに、

『学校で指定された箇所を終わったので、次にやることを指示して下さい』

 と言っているらしいのです。経験で分かる。このグループは何から何まで指示しないと何もできないグループだ。もちろん、上位校には合格できないグループ。こんな人間ではコンビニでも使えない。自主的に動けないのなら、ロボットの方が間違えないだけマシだ。

  

   これがそのまま社会にでて、負け組みと勝ち組に分かれていく。もちろん、途中でそえに気づいて改心する子もいるし、勉強と関係がない大工とか料理人とか別の道に進む子もいる。しかし、サラリーマンや公務員の場合、上記の二極分化はかなりハッキリしている。中学の段階で将来が予想できる。

  塾、予備校、学校は、この底辺グループに来てもらうと倒産するリスクが高まる。実際、そういう例を多くみてきた。

「あの塾は不良のたまり場だ」

 と言われ、備品の破壊や盗難で修理費や管理費がかさみ、すぐ塾をやめるから宣伝広告費をかけて常に生徒募集を行い、合格実績が上がらず、徐々に生徒が離れていく。そして、最終的に閉鎖となる。よくあるパターンだ。

  以前、「落ちこぼれ軍団の奇跡」という本が話題になった。TV番組の「スクールウォーズ」のもとになった本だ。

 

 そんなA氏にとって、今回の事件は青天の霹靂だったに違いない。大阪市立桜宮高校で起こった高校2年生のバスケットボール部主将の自殺事件で、体罰をしたバスケ部顧問の男性教諭B氏(47才)。『スクール☆ウォーズ』のモデル教師A氏は、このB氏と、“深すぎる関係”で結ばれているからだ。在阪スポーツ紙の記者が明かす。「体罰をふるったBさんは、実は『スクール☆ウォーズ』のモデルとなったラグビー部元監督Aさんの娘と結婚しているんです。つまり、義理の息子なんです。Aさんの娘も教師で、桜宮高に勤務していた縁でBさんと結婚。AさんとBさんのふたりは同じ“熱血教師”として意気投合してきたそうです。Bさんが、義父の指導方針を受け継いでいたとしても不思議ではありません」

  この話も、落ちこぼれは卒業してバリバリのエリート選手が優勝しただけと言えば言いすぎだろうか。理由はよく分からないが、日本では昔から落ちこぼれが立ち直る話がウケる。最近では、暴走族講師とかビリギャルとか。なんでだろう。そんな非行講師や非行少女を持ち上げてどうしたいのだろう?

 

  日本をよくしたいのなら、落ちこぼれにスポットライトを当てるのではなくて、浮きこぼれにスポットライトを当てるべき。マスコミは頑張っているマジメな生徒に恨みでもあるのだろうか。

  私も落ちこぼれの成功物語を見るのは嫌いではない。しかし、そのほとんどが嘘であることも知っている。嘘が言いすぎなら、脚色、実話にもとづいたフィクション。万一、ほとんど脚色なしにしても「100万人に1人」に起こるかどうかの確率。つまり、宝くじを買うような確率。

  宝くじを現実の予算に組み入れるバカはいない。受験勉強をギャンブルと考える子は、ほとんど落ちる。

 

第二十八章

「受験の真実」

  私は北勢中学校では、体操部の副キャプテンだったし、クラスの議員で班長だった。しかし、そんなことを公表したことはないし履歴書などに書く欄もない。つまり、社会では評価の対象とならないので公表していない。少林寺拳法の黒帯で、若い頃にジャッキー・チェンとTV番組に出たという話も評価されないことを知っている。

  たまたま勉強ができたので公表しても大丈夫だが、そうでないと

「要するに、いろいろやってどれも中途半端で何も成果が上がらなかったということね」

  と評価されるのがオチなのだ。社会とはそういうもの。

 

  ところが、三重県のように日教組の先生が100%という県では特に

「クラブ、生徒会、勉強、恋愛、なんでもバランス良く成長していこうね」

  という理想を掲げる。科目も

「体育も家庭も音楽も、みんな大切」

  と指導する。時には

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