受験戦記番外編「思い出の木しゃもじ」

前話: 13 不協和音第一楽章
次話: 14 不協和音第2楽章

人は、なにかの思い出にまつわる品物を多かれ少なかれ持っているのでは
ないかと思う。母親の形見の指輪だとか、どっかにこっそり隠されている昔
の恋人の思い出の品だとか、或いは、成長した子供達が使い古したおもちゃ

や洋服、絵、なにかの賞状賞品などの思い出の品々。

わたしにも、子供達の幼い頃の絵や作文、おもちゃから絵本類、お気に入り
だった衣類等等、並べたてたら、結構たくさんでてきそうです。そのなかでも、
「なに、これ?」と人から言われそうなものが、台所の引き出しにしまってあり
ます。それを目にした日には、一日中、一人可笑しくて笑いがこみ上げてくる、
かれこれ35年も昔に、日本からポルトガルへと持ち込み古くなり、今では
まっぷたつに割
れてしまった「木しゃもじ」です。

 

息子やもいける娘が耳にしたら、「あ!あれだ、あれ!まだ持ってるのか!」
と言われること、請け合いの代物なのです。

アメリカ映画等を見ていますと、幼い子供にとくとくと説明し、上手に
納得させる場面に何度も出くわしますが、あんな風に説得できる親も、
理解できる能力を持つと思われる幼児も、大したものだと感心せず
にはおられません。

が、我が子たちが、その年端でわたしの説明を十分に理解してくれ
るとは、わたしには思われなかったのでした。

これは直してもらわないと困る、という事をした際は、「こういうことで、
それはいけません」と簡単な説明のワン・クッションを置いた後、
「お手手をだしなさい」。そうして、おずおず差し伸べるちっさな手の
ひらを、この木しゃもじで軽く一回パチン、です。
ひどい親だと思わないで下さいましよ。

小学生くらいの年齢になりますと、さすがの我が子たちも、なぜしては
いけないかという理由を言葉で説明すると、ある程度理解できるよう
になり、以後、木しゃもじの出番はなくなりました。

娘が4歳の頃、何をしでかしたのか、今では覚えていませんが、
「お手手を出しなさい。パチン。お部屋に入ってなさい」とやりました
ら、元気いっぱいでいたずら者の兄と違い、めったに叱られること
がなかったもいける娘、このパチンが堪えたようで、いっちょまえに
反抗しました。

言われたとおり大人しく自分の部屋にこもっていと思いきや、娘は
突然、わたしがいたリビングルームのドアをパーッと開けるなり、
「まいちゃん、家でしちゃう!」

見ると、既に小さな背中には、これまた小さなリュックを背負っており
まして。どうするかと様子を見ることにしました。

すると外へ出て、同じ通りの20m程先にあるオーグスタおばあちゃん
の家へトットコトットコ歩いて行きました。表通りに面したうちのベラン
ダから見えますから、すぐさま義母さんに電話。
「そっちへ向かってます~」
すると、お義母さん、自分の家のドアを開けて待ってます。

後で話を聞くと、小さなリュックにはちゃんと自分のパジャマを入れて
あったとか。これはもう、4歳たりとも立派な家出ですわ。

そうそう。彼女が補習校中学1年の時に作った数ページの自分新聞
には、「吾輩の憧れ、家出」とあったものでした。
まったく、んもう・・・

4歳の初家出からずっと本格的な家出なるものを夢見てきたので
しょうか。結局日本へ行って、その夢を実現したのですけどね。

 

著者のSodebayashi Costa Santos Yukoさんに人生相談を申込む

続きのストーリーはこちら!

14 不協和音第2楽章

著者のSodebayashi Costa Santos Yukoさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。