勧進帳

著者: 鎌田 隆寛

故・赤塚不二夫氏の葬儀。

師弟の強い絆で結ばれていたタモリは、ここで紙を手に7分56秒にも及ぶ弔辞を述べた。

二人の出会いから始まり、ひとつ屋根の下で過ごした思い出の数々、「私もあなたの数々の作品のひとつです」という締めくくりまでを、時折涙声になりながらも淀みなく読み上げた。

この弔辞はタモリの数ある伝説のひとつに数えられている。

内容が感動的なのは勿論のこと、手にした紙が、実は全くの白紙だったからである。

歌舞伎の代表的な演目、「勧進帳」。

安宅の関所を、山伏に扮した義経一行が通り抜けようとする。

疑いの目を持つ関守を、勧進(布教活動の一種)を行っているのだと説き伏せようと、武蔵坊弁慶はたまたま持ち合わせた白紙の巻物を、「勧進帳」のように読み上げる。

「勧進帳」の関守の名は「冨樫左衛門」と言い、タモリのマネージャーの名も「トガシ」。

タモリの弔辞はまさに現代の勧進帳。痛みではなく、悲しみによる弁慶の泣き所と言うわけだ。

さて、一方国会では、センセイ方が法案を手に「関所」を通さんと頑張っておられる。

こちらはびっしり文字が並ぶ「勧進帳」を食い入るように見つめ、「エー」とか「アー」とか発声練習を挟みつつお読み遊ばされる。

「中村屋!」「成田屋!」歌舞伎では威勢の良い掛け声が飛び交うが、国会では「引っ込めや!」「 ウソつけや!」という野次が飛び交う。

「これでいいのだ、とは言えないザマス」

なーんてイヤミも言いたくなる。

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