早稲田で人生を変える 第六回
高校の同級生、下平君が薦めてくれた代々木先生だが、
最前列の生徒を指して質問する先生だった。
質問に答えるためにきちんと予習をする必要がある。そのためにはちゃんと勉強する必要がある。私は常に最前列の中心に座るようにし、予習、復習を欠かさないようにした。単語の暗記もテキストで出てきた単語を徹底的に覚えた。そして、文型、文法を意識して長文を読んだ。辞書は「ジーニアス」を代々木先生が薦めたので、それにした。代々木先生の授業はとにかく文型、文法を意識するため、春ごろは、長文のテキストがまったく進まなかった。私はそれに驚いた。だって、長文なんて、さーっと訳して、問題文を解けばいいではないか。代々木先生は違った。
すべての文章の文型をSVOCに分解するのだ。
すべての文章には文型があるということに、浪人して初めて私は気が付いた。そして、予備校の授業には「長文読解」「英文法」「英作文」と別れていたが、代々木先生の長文読解は、英文法であり、英作文でもあった。すべてを意識して解説をする授業だった。
最初の授業は長文の2行程度を90分かけて解説した。
その中には、様々な文型、文法が凝縮されていたのだ。私は、自分の無知に浪人して初めて気が付いたのだ。そして、文章の文型がわかれば、ある程度単語がわからなくても文章が理解できることを学んだ。代々木先生はよく「外国人は文型を意識して文章を読んでなんかいない。彼らは意識しなくても読めるのだ。母国語でない我々は、意識する必要があるのだ。」そんな私だから、最前列に座っても間違えてばかり。授業の妨げにすらなったかもしれない。
しかし、早稲田大学のためだ、そんなことであきらめはしない。
私の背後には数十人の生徒がいたが、彼らの顔すら覚えてもいない。
私は自分のために勉強するんだ。
私は、代々木先生に職員室に質問に行った。最初は、復習が足りないとかなり怒られたものだ。また、「英作文」の授業は他の先生が担当だったが、代々木先生に見てもらいたいと申し出たところ、了承いただいた。しかし、私は英作文の勉強方法をよくわかっておらず、日本語が書いてある英作文のテキストを先生に渡して、「じゃあ、お願いします。」と代々木先生が作文し、それを解説してくれるものなのかなと勘違いしたのだ。これには先生が「君が考えて英作文してくるんだよ!」と激怒された。当然のことであり、英作文についても、自分で考えて作文するという勉強方法を理解していなかったわけだ。これは、今でも思うのだが、
「成績が上がる正しい勉強方法で勉強する」
ことができていない受験生は私以外にもいたのではないだろうか、そして、今でもたくさんいるんではないだろうか。予備校で知り合った山本君という知人がいたが、彼はとても綺麗にノートをとっていたし、自習室で勉強もしていた、そんな彼は2浪して國學院大學の経済学部2部に行った。何をしていたのだ、ということになるが、きっとその様な道をたどったのは彼だけではないのだろう。
2浪についてだが、私が代々木先生の授業で最前列で授業を受けていたとき、常に最前列で受講していた新川さんという2浪生がいた。私は彼を見た時の印象は
「2浪ってことは、去年1年間何してたんだよ?浪人してたんだから勉強して早稲田くらい行けよ」
と完全にバカにしていた。結果として、
私はそのバカにしていた2浪生になるわけだが。
この時学んだのは、
バカにした人間の境遇に自分もなり得ることがあるのだということだ。
これ以降、私は人をバカにしたり、悪口を言うことを辞めた。
1浪で勉強を開始したばかりの春は、まだ自分の将来が開けるものだと信じていたのだが。
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