ど素人 高田支配人の現場改革  3  背水の陣

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・背水の陣~ サイは投げられた

   

 高田も緊張していたが、迎えるベテラン社員たちも同じように緊張していた。

中でもまだ32歳くらいの若いK営業部長は 朝から玄関前を掃除したり ロビーの椅子の位置を動かしたりと 明らかに他の社員たちに動くことを催促しているかのような無言の圧力をかけながら、黙々と朝礼の準備をしていた。

 

普段は815分から掃除をして朝礼は8時半と聞いていたのだが、この日は8時くらいから掃除が始まり、まるで大晦日の大掃除のように全社員が繰り出して建物の隅々まで清掃作業をし、830分になるや、まるで軍隊のようにピシッと整列して、朝礼が始まった。

 

K部長の司会で、ぴりぴりとした雰囲気のなか、全社員の一人ひとりの紹介があった。

支配人から一言挨拶を、と催促されて 一歩前に出て高田は、準備していた一言を機械的に話そうと思った。

 

「おはようございます。ただいまご紹介いただいた高田です。、、、、、、、、」

と言葉を続けようとしたが、社員の顔を見ながら目と目を一人ひとり合わせてゆくと、そこには歓迎しているものの雰囲気は少しも感じられなかった。

 

準備していた言葉は完全に吹き飛んでしまい、しばらく沈黙が続いたあと、昨日A副社長に「教えようと思うな」といわれたことがふと浮かんできた。

「皆さん、実は 私は支配人も初めてですし、現場の経験も2年ほどで皆さんの経験にはとてもかないません。気がついたことがあったら、遠慮なくどんどん言ってください。」

そうすると ほんの少しだが 年配社員の夫人たちの表情が柔らかくなった気がした。

 

こうして、まだお互いによく分からないもの同士、カチカチの機械的な朝礼を行い、すぐに現場に散っていった。

散っていく中で、高田に改めて声をかけるものは一人もいなかった。

予想していた現実とはいえ、初心者の高田にとっては、この雰囲気をどうやってほぐしていったらいいのか、元気でいようという心が、あっという間に萎えてくるのを感じていた。

「これは 元気でいること自体が難しいな、、、、どうしよう」

 

とにかく サイは投げられたのだ。

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ど素人 高田支配人の現場改革 4 サイは投げられた

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