アリゾナの空は青かった【15】恐怖のグレイハウンド・バスPt.3

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これはエライことになった・・・

中学時代は弘前の田舎から大阪へと急行の夜行列車で22時間もかけて、何度か家出冒険したり、高校を卒業して後は、深夜の大阪街を徘徊したりしたわたしではあるが、この時はさすがに見知らぬ異国の町にたった一人放り出されて、心細いと言ったらなかった。

おまけにトム君、別れ際に「Hey、警官と言えども信用するな。」って、そんな言葉を残すではないか。わたしにはパトカーに乗って送ってもらうしか他に手段はないのだ、アホめ~。元はと言えばあんたのせいだ!と、言いたい不満もこの時はひっこんでしまうほどの心細さでありました。

そうです、わたしはフラッグスタッフにあるグレイハウンドバス停までパトカーで送ってもらったのだった。標高2300mの少し雪の降った町の昼下がり、バス停でわたしはツーソンまでの切符を買い、待合室の長椅子に腰を下ろした。内心は不安でブルブル震えていたのである。

長椅子に腰かけ、周囲を恐る恐る盗み見してみる。周囲が皆、わたしを、わたしのバッグを狙っているかの錯覚に襲われ、グレイハウンドバスがやって来るまでの2時間、生きた心地もなしにその長椅子にひっついて、微動だにせず石の如し。やがてバスが到着し、乗り込んだその一瞬、あちゃ~。乗客の中に白人は一人もいなかった・・・

偏見を持ってはいけないぞ、と己に言い聞かせて席をとる。しかし、これは初めて見るドキッとした光景だった。欧米人が、日本人ばかりのバスにうっかり乗ってしまったら、同じように感じるのだろうか・・・単一民族国家の日本では当時としては起こりえない光景だ。そしてこれが移民国家アメリカなのだ、とこの件を後で振り返って思ったことだ。

それから数時間のグレイハウンド・ジャーニーの、ただただ長かったこと。フラッグスタッフから3時間ほどのフェニックスについた時はすっかり夜になり、そこから2時間がツーソンなのである。

ツーソン着は夜の10時を回っており、休暇と週末と重なってバス停があるダウンタウンは人影も無く、ひっそりと静まっていた。その時のわたしは、タクシーに乗ることすら恐怖だった。もう乗り物はいやだ・・・家への道はダウンタウンの地下道を通らねばならず、そこを歩く己の足音がエコーとなって響き、びくつきながらわたしは足早に走るが如く。いったいそんなわたしの姿は端から見たらどんな風に見えただろうか・・・

ついに辿り着いた927番地!ドアを思いっきり開けて、わたしはそこにしばらく突っ立ったままだったようだ。ドアを開けてすぐがリビングなのだが、そこで思い思いのことをしていた住人達が一斉に振り返り、「どうしたの?」とたずねられ、初めて我に帰った。 「何が?」と、とっさに平素を装ってみたものの、「顔が真っ青だよ」の一言に、わたしはその場にヘナヘナと座ってしまったのだった。

止むを得ない数時間とは言え、グレイハウンドバスに乗って夜間独りアメリカを走った日本女性って、他にもいるのだろうか・・・

わたしが上述したバスの乗客云々を別にして、女性には決してお勧めできる旅行ではない。三話にも渡った、我がアメリカの恐怖事件ではあった。

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