アリゾナの空は青かった【18】University Blvd. 504の冷蔵庫泥棒

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ケンタッキー・インの住所である。インを出て左にこの道をまっすぐ歩いて行くと大学に入る。

 
ケンタッキーイン、玄関先の住人。     インの玄関先にて。

月100ドルのわたしの部屋は二階にあり、ベッド、机、それに小さなテーブルがついているだけの、一応家具付き部屋ではあった。台所には、コンロが6つくらい備え付けられている調理台と大きな流し台、それまで映画でしか見たこともなかった、自分の背丈をずっと上回る冷蔵庫、その他包丁まな板、鍋などの調理用具や食器類は一通り取り揃えられており、だいたいの用は足りた。

台所の真ん中に大きなテーブルが置いてあり、そこで食事をとるもよし、もうひとつ、台所の横の通路の空間にある小さなテーブルでとるもよし。住人の自由である。

ふと、台所の隅にある台の上の錠前付きの細長いアルミの箱に目がいった。ふむ、なんだろうか、あれは、と、その時は大して気にもせず、わたしは翌日からの自分の食料調達のために、斜め向かいにあるマーケットへ出かけた。ミルク、コーンフレークス、果物等を仕入れて自分の物と分かるように、プラスティック袋にそれらをまとめて冷蔵庫に入れて置いた。

翌朝は台所横の小さなテーブルでコンーフレークスの朝食を一人とり、新しい下宿先からその日の授業に気合を入れて意気揚々と出かけたのである。


インのドアを開けるとすぐに、各住人別の連絡ボックス、掲示板がある。写真は女主人マリアから住人へのイースタープレゼントのチョコレート。

大学での一日も終わり夕食時にはまだ時間があったのだが、少し腹ごしらえに果物でも、と思い冷蔵庫に入れて置いた袋を開けると・・・・むむ?りんごの数が減ってるような気がするぞ。あ、バターが開いてるじゃん・・・ちょっとちょっとぉ。今朝、口を開けたばかりのミルクがほとんどなくなってるくらいに軽いじゃないの!これはいったいどういうことでせう。

するとその時背後から、「こんにちは。日本の人ですか?」との英語の声が聞こえた。振り返ると、まだ少年の匂いがするようなとても若い、背の低目な日本人青年がいたのである。しかし、慌てふためいてる時のわたしは、ホント、だめです。この青年のきちんとした挨拶の始めの言葉もろくに挨拶を返しもせず、「入れて置いた物がなくなってるような気がするの」と日本語で言う。

すると、「自分の食料はあそこにあるアルミボックスに名前を書き、錠をかけてそれごと冷蔵庫に入れて置くのです。ホラ、こんな具合に」よく見ると、冷蔵庫の中にはアルミボックスがたくさん入れてある。

箱に入っていない物は、誰でも自由に食べていい、と言うのと同じなのだそうだ。家族と同じってこと?なんだか納得がいかないな。こんな風に自分が買い込んだ食糧を「ええのよ^^」と言って済ませる経済的、精神的余裕も当時わたしは持ち合わせておらず、即座にその場で青年に教えてもらったように、アルミの箱に自分の食料をしっかり入れて確保したのだった。これは、今でも時々アメリカ留学経験を持つ人と話す機会があると、相手が日本人に限らず、エピソードとしてよく話題に上ることである。

さて、その若い日本人青年、実は二階にあるわたしの部屋の向かいに住むケンタッキーインの住人だった。

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