「また明日!」を言わなくなった… 【其の三・疲弊】
【疲弊する物件探し】
それまでの物件探しは手当たり次第というか気分次第でした。
当時私が勤めていた会社が都内にあったこともあり、はじめて横浜の地を離れようかとも一瞬考えました。
しかし、一つだけ引っかかっていたことがあったのです。
当時彼女にはまだ独身だった兄がいましたが、私は一人っ子。
両親の年齢がまだそこそこ若かったとはいえ、もし近い将来どちらかに何かが起きた時には駆け付けられるのは自分しかいない。
それが頭の中に常にありました。
決して親孝行というわけではなく、一人っ子という家庭環境が自然とそう考えさせたのでしょう。
そこで、私の実家に近いところで住まいを探すという結論に至りました。
彼女には申し訳ないとも思いつつ、この点だけは譲らなかったように記憶しています。
前話に登場した不動産屋は、幸いにも実家から歩いていける距離のところにありました。
そこで対応してくれた女性従業員は私達よりも年下で、まだまだ駆け出しといった感はありましたが、とにかく人当たりがよかったのです。
同じ笑顔でも、心からの笑みか営業スマイルかはある程度わかります。
この従業員の笑顔は「前者」だったと断言しておきましょう。
女性従業員とともに何週かに渡って色々な物件を見て回りました。
ちなみにこの女性従業員の担当は賃貸物件です。
共に初めて実家から離れる上に物件探しの知識もほとんど皆無でしたので、当然の如く賃貸物件にするつもりでおりました。
いくつか面白い物件も紹介していただきましたが、どこか決め手を欠いていました。
ある時は賃料、ある時は間取り、そしてある時は駅からの立地…。
いくら見て回っても決まらないことに、さすがに疲弊してきた感がありました。
ただ不幸中の幸いというべきか、この疲弊感が私達にある「啓示」をもたらしました。
物件探しに対する考え方を一変させることになったのです。
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