「父がくれたもの」【STORY3】~地球髪切屋~世界一周後、世界でたった一つの「鏡にない美容室」を作ろうとする変わった美容師の話。
人はみんな何かの影響を受けて生きている。
その中でも親というのはやはり偉大だと思う。
子は親の背中を見て育つとはよくいったもんだ。
僕の生き方や働き方を決めたのは中学2年生のときの父の言葉だった。
世の中は誰かに決められたルールが多い。
もはや当たり前で誰も疑問に思わないことも多い。
父の言葉は、人と人とが関わり合う上でもっと本質的なものだった。
今日はそんな日のことについて綴ります。
【STORY3】「父がくれたもの」
友の一言のおかげで、僕は自分が働きたいと思える店に出合った。
その店は今までみてきた他の美容室とは違っていた。
それを直感的に感じた瞬間、僕はこの店で働きたい!この店しかない!と思った。
なぜそう思ったか、それは「人と人との距離」がなかったからだ。
簡単にいうと接客というものにまったくマニュアルがなかった。
心から人を思い、人を大事にし、心から繋がろうとする。その当時20歳だった僕にもそれは感じられた。
僕はずっとそんなことができるところで働きたかった。
どこの店も接客というマニュアルがあり、学校でもそれを叩き込まれた。
いつも僕は、そのマニュアル通りの接客に違和感を感じていた。
そして自分自身もそれをされた時、凄く居心地が悪かった。
人と人が関わり合うのにマニュアルなんて必要なのかと疑問に思っていた。
そしてそれは接客やサービスという言葉に対しても感じるようになっていった。
そんな違和感を感じて生きるようになった理由がある。
僕が中学2年生の時のこと。学校から職場体験という課題を出された。
働くとはどんなことかを体験し、地域の人と繋がろうという名目のやつだ。
と、その前にまずは自分の親の仕事を知ろうということになった。
僕の父は自営で薬局を開いている。そこが僕の実家だ。
薬剤師の父にいくつか質問をした。
ありきたりな質問、そのほとんどを忘れた。けれど、一つだけ覚えていることがある。
そしてそれが、僕がこれから生きるということ、働くということに影響を与えたものだった。
僕は父に質問した。
父はこう答えた。
そういえば薬剤師は、病院でも他の薬局やドラッグストアでも絶対白衣を着ていた。
父が白衣を着ているところを見たことは確かになかった。
その理由を聞くと父は答えた。
「白衣は心の壁」だと思っていると。
「白衣を着ていることで、お客さんは自分(父)のことを先生だと思ってしまう。先生と患者という立場にたったとき先生が偉くなりそこに差が生まれ、見えない壁ができる。そうなるとお客さんは素直に思ってる事や意見を言えなくなるんだ。薬を選ぶときに、その人がどんな人で、どんな生活リズムで、どうやったら薬を飲んでくれるのか、一日何回なら飲んでくれるのか、粉末か錠剤ならどちらがいいのか。わざわざ自分のところに相談に来てくれるんだから、ただ薬を渡すだけじゃなく、そんな細かい所からその人に寄り添えれる薬剤師でありたい。それをする為にまず白衣が心の壁になるなら、僕は白衣を着ないんだ。そして偽りの接客もしないんだ。」
そう言った父の言葉を、僕は忘れることはできなかった。
そして小さい頃からみてきた父の働く姿、その言葉に嘘はなかった。僕もそんなふうに働きたいと、この時決意した。
幼き日に父がくれた言葉。
自分の仕事に誇りをもち、人と心から関わり合う姿勢を学ばせてくれた父の働く姿。
そんな風に働くことができるんじゃないかと思える店を、美容師として見つけられたことが本当に良かった。
そうでなければ僕はきっと美容師にはなってなかったと今でも思う。
そういう想いで心から働きたいと思える美容室に出合ったのに、僕の美容師としてのスタートは決して一長一短ではなく、様々な壁にぶち当たることになります。
その壁をどう乗り越え、美容師をしていく中で気がついていく大切なものの話を、次のストーリーで綴ります。
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