元心臓病のホームレス少年が カリブ海に住むようになった3つの理由
ダラス経由で降り立った目的地は オクラホマシティから車で数時間のノーマンという場所だった
空港に迎えに来てくれたおばさんが 新しいホームステイ先の家族に違いないと思ったが
簡単な会話も交わすことが出来ずに 到着までニコニコしている事しか出来なかった
もしこれが本当のホストマムでなかったらどうなるのだろうかという疑念も頭をよぎったが
良く思い返したらアメリカの地に足を踏み入れる事だけに注力してきた1年だっただけに
そんな事よりも この後具体的にどうしたらいいのだろうか がわからない事の方に恐怖に感じた
真夜中に住宅地で車が止まり 1件の家のドアの前に連れていかれた
ドアが開くと中から小奇麗な老婆が姿を見せた
迎えに来てくれていたのは近所のおばさんで 本当のホストマムはこの老婆だった
家の他の住民は エクアドルから来たイケメンでプレイボーイのマリシオ
そして真っ黒な猫 スモーキーだった
少年はこの町で まず語学学校に通う事になる
この町を選んだ理由は米国内の英語の教科書の多くは オクラホマ州で発行されている事から 語学学校で手っ取り早く英語を学べるだろうという理由からだった
語学学校では少年と同じように各国から夢を持って集まった留学生で犇き合っていた
最初に友達になったのは プロのバスケ選手になるという夢を持ってやってきた
仲西という同い年の少年だった
彼の夢は明確で
家に遊びに行っても 早朝に一人で家を抜け出し 小一時間練習をしてから戻ってくるというレベルのストイックさを持っていた
部屋の中もバスケ選手のポスターに埋め尽くされていて
夢を叶えるという本気さが手に取るように伝わってきた
自分はジャーナリストになる為に毎日をどう過ごせばよいのだろうか
少年の胸に一塊の不安が過るようになったが
仲西と男の約束をする事で 夢から視線を離す事が出来なくするという手段を取る事にした
男の約束とは
仲西のデビュー戦を必ず取材する というものだった
その約束は時を隔てて果たされることになるのだが
それまでの道のりは少年の想像を遥かに超えて 波乱に満ち溢れた事になるとは
予測できる余地は皆無だった
語学学校のプログラムを終え
とうとうNY州にある高校へと進学する事になった
その学校へ進学した理由は 日本で検索可能な学校の中で最も学費が安かったという事と
NYは日本で言ったら東京のような場所なので ニュースで聞くような標準語を学べるに違いないという憶測をしていたからだった
高校での第一歩はまずは英語力のテストを受ける事だった
このテストの結果によってESLという英語を母国語としないクラスに入るか
レギュラークラスといって現地のアメリカ人と同等のクラスで授業を受けるかが決定する
テストはマークシート式だった
よく見ると 薄く○を消した跡がある事に気が付いた少年は
その通りにマークシートを記入した
テストの結果 少年にはアメリカ人と同等の英語能力があると判断され
初日からレギュラークラスの授業を受ける事となった
思いもよらない幸運に 少年は幸先の良さを運命に感謝していたが
いざ始まってみた授業の中身は 全く理解できず
自分が後戻りできない窮地に陥った事に程なくして気が付くことになる
1年間必死で喰らい付いて 訳の分からない授業に出席し続けたが
美術は疎か 体育の授業の単位さえも落としてしまい
1年で取れた単位は0という現実が立ちはだかる
確かにその学校は ミッションスクールの中ではハーバードと言われる東部でも指折りの大学付属高校であった為に
半径60マイルの中では筆頭の進学校というレベルの高さを誇っていたが
それでも取得出来た単位が0というのは汚名以外の何物でもない
少年は頭を悩ませたがここですごすごと引き下がるわけにはいかない
あれだけのロビー活動を繰り返して結果 両親に借金をさせてまで叶えた留学の夢を
その程度で諦めるわけにはいかなかった
少年は語学学校で出会った他の生徒が進学した先へ 望みを繋げる事が出来ないか
行動を起こしてみた
小学校でいじめっ子相手に喧嘩を仕掛けた時のように
今までも自分の陥った窮地からは自分の行動によってのみ脱出をしてきたからだ
今までの学校を自主退学し
そして今度は北米大陸の反対側
オレゴン州の高校へアプリケーションを自作し提出した
見事にそれが受理をされ
なんと高校1年分の単位も免除になって
晴れて2年生から学業を継続出来る事になった
1年目は留学会社に委託してやっていた作業を
全て自らの手でやってみたら
訳なく出来てしまったので その年からは留学会社のお世話になる事を止めた
オレゴン州はセーラムにある高校は なんとNYの高校よりも学費が安かった
やはり現場に行かなければ 本当の情報を得る事は出来ないのだと 悟った
意気揚々と新しい高校生活を始めたものの
プライベートスクールという厳しい環境の中で
喫煙が見つかってしまい退学になったのは 転校して間もなくの事だった
学校ではノートーレランスといって情状酌量をしない制度を取っていたので
そのまま帰国以外の選択肢を選べなくなってしまった
帰国して途方にくれていると
その学校の校長が退職し
新しい校長が就任したニュースが飛び込んできた
そして学校と折衝した結果
校長が変わったので新しい生徒という立場で再び受け入れるという特別対応を勝ち取る事に成功した
少年は喜び勇んで再びアメリカの地を踏むが
ホストファミリーが勝手に開封したレターの中に
喫煙をしている姿が映っていて
それが復帰前の物であるという証明が出来なかった為に
再度退学の処分を受けてしまう
もう正攻法で戻れる見込みは無いだろう
そう悟った少年は 両親へ合わせる顔等あるはずもなく
日本へ帰国したその日の夜に家出をする
2度と両親へ迷惑を掛けたくないという思いから
カードを机の上に置き
置手紙にもう迷惑はかけませんという内容の旨を置手紙に残し
アメリカよろしくヒッチハイク等を試しながらとにかく遠くへと向かった
第3話 17歳のホームレス
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