包丁の男
高校3年生の頃の話。つまり2006年頃、具体的な日付は忘れたが夏の暑い日の話し。
下校中、コンビニで少年ジャンプを立ち読みしていた。
そしたら窓越しのすぐ目の前に目線が虚ろな男が立っていた。
髭も沿ってなかったのか顎がかなり青く、髪も寝癖みたいにボサボサだった。
体型は普通だが、きっと内臓脂肪を抱えてそうな筋肉で、約170センチ前後の身長。
男は上も下も白い作務衣のような作業着の格好をしていた。長靴も白かった。
ただ、服に付いていたのは赤い模様で。
筆に赤い絵の具と水を含ませ、それを振りつけて吹き付けたように赤い模様がついている。
男は目線が虚ろなままコンビニに入ってきて、店員と何かを話してた。
関わりたくなかったので、僕はひたすらジャンプを読んでいた。
読んでいたジャンプの内容も頭に入らないくせに。
男の声は言葉なのか唸り声なのか分からないが、微妙に高い声だったのは覚えてる。
話し終えると、また虚ろな目線のまま、またコンビニの窓のすぐ目の前に立つ。
男は窓沿いの公衆電話を手に持ち、電話で誰かと話をしていたようだ。
電話を切ったあと、虚ろな目線のまま立ち尽くしていた。
当時自分以外にも店内に客は数人いて、流石にあの男の異常な雰囲気を感じていた。
買い物を終えた客も戸惑いながら素直にコンビニから出ることができないでいた。
でも一番嫌なのは僕だ。たまたま立ち読みしていた位置が、窓越しとは言えその空間にいた人物たちの中で僕が一番男を近くで観察できるポジションにいたからだ。
数分後、警察官が来た。
警察は男に片手を上げて、多分唇は「お兄さん、こんにちは」と動いていた。
警官の2、3m後ろにはもう一人の警官。
挨拶をした警官は右手を腰に構えながら背を前のめりにし少しずつ男に歩み寄っていく。ジリジリと。
間合いに入った途端、警官は殺気を出さない手刀で男の右手に持っていた包丁をポンと優しく叩き落とした。
男は抵抗するわけでもなく、虚ろな目線のまま。
後ろにいた二人目の警官が無線を使った数分後、手錠もされず、男は警官から背中をポンポンと宥められながらあっさりフラフラとパトカーへと入り、消えていった。
翌日、学校側から不審者の出現したニュースなどはなく、テレビやラジオ、地域のニュースを探したが、その男について書かれて記事は何処にもなかった。
今、あの男がどこで何をしているのかは、僕は知らない。
あの時服についていた赤い模様は何の赤だったのか、僕は知らない。
僕の通っていた高校は都立松が谷高校。現場のコンビニはそこから多摩センターへ行く途中の多摩ニュータウン通り沿いのローソン(東京都多摩市山王下1-13-12)です。ストリートビューでここを見ながら読んでもらえると臨場感出るかもしれません。また、この話しの男を知っているという人がもし奇跡的にもしいたら、その男が何者だったのか教えてください。(笑)
著者の村上 耕介さんに人生相談を申込む