第3話:マレーシアでの怖い体験
マレーシアでの怖い体験
ペナン島の安宿の女主人に手錠をした警察は、次の標的に向かった。
それは私達だった。
「どこから来た?」
「日本です・・・」
悪いことはしていないのに、懇願するような目で、私達は警察を見上げた。
「それなら、OKだ」
警官達は、私達に笑顔でそう言って、宿の部屋を捜索し始めた。
私達は一目散に、その場を去ろうと、荷造りをした。
手錠をかけられたまま、女主人が、「これ、あなたのじゃない?」と
床に転がっていたタイガーバームを差し出してきた。
今までにないような優しさを、女主人にみた。
とても気弱そうに見えた。
手錠をかけられて、これから警察に連れて行かれるというのに、どんな心境で、どんな意図を持って、最後の最後に親切にしたのだろう?
疑問に思いながら、
「そうです、ありがとう」と受け取った。
タイガーバームなんて、今はどうでもいい、
一刻も早く、ここを立ち去りたいと思いながら、大慌てでパッキングを済ませ、
もう一人の日本人女性と足早に宿を去った。
別の宿を探して、数日後のこと。
朝ごはんを、外の屋台で食べていたら、誰か知らないおじさんが話しかけてきた。
「君たち、あの宿に泊まってただろう。
いや〜、しかし、ラッキーだったね、君たちは」
「なんで、知ってるんですか?私達が泊まってたこと」
「知ってるさ。君たちが、大慌てで、あの宿から出ていくところを、見てたもの」
アジアの田舎でいつも感じるのは、誰も見ていないようで、必ずと言っていいほどいつも誰かしら見ているということ。
「いや、ほんとに君たちはラッキーだったね」
ニヤニヤ笑うこのおじさんは、何かを知ってるらしい。早く、詳しい事情を知りたかった。
「あの宿に泊まってた、君たち以外の外国人客は、全員、警察に連れて行かれたよ。
そして、薬物の検査を受けたそうだ」
私達は、青くなった。
「なぜ、私達は連れて行かれずに済んだんだろう?」
「君たちは、日本人だからさ。
日本人は、そんなことしないって、警察は思ってる」
もし、私達が日本人じゃなかったら、警察に連れて行かれて、検査を受けてたってこと?
何かの間違いで、刑務所に入れられてた可能性もあるってこと?
全く、おっそろしい状況に、知らないうちに巻き込まれそうになってたってことに気づいて、
全身から力が抜けた。
それと同時に、日本人であることに、感謝した。
日本人っていうだけで、検査を免れたのだもの。
先人の日本人が作ってくれたいいイメージに、この時ほど感謝したことはない。
どの国にいっても、日本人というと、とても好印象をもたれる。親切にされる。
「日本人は大好きだ」と言ってくれる。
このイメージを私達も壊すことなく、守っていきたい。
怖い体験のあとは、楽しい出会いが待っていた。
マレーシアの、とある小さな島での出来事。
小さなコテージに泊まり、朝食を食べていた時、欧米人の素敵なカップルが話しかけてきた。
「かわいい女の子がいるわね、と思ってたのよ」
お姉さんが妹を可愛がるような愛情深い目で、そう言った。
二人は、オーストラリアから来た夫婦。マレーシアに住んでいるらしい。
しばらく会話をしたあと、「よかったら、うちに何日か遊びに来ない?」
と誘ってくれ、早速遊びに行かせてもらうことになった。
行ってみると、二人の住まいは、私の想像をはるかに超えるものだった。
こんな暮らし方を見たのは、人生で初めてのことだった。
こんな生き方もあるんだ。日本から出てみなければ決して知ることはなかった、ライフスタイルを見た。
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