エストニアどうでしょう④ タリンでカメラを失くす
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その事実に気付いたのは、タリン自由広場で地元メディアから突然インタビューされた日の夜だった。タリンにある人気のアイリッシュバー「Dubliner(ダブリナー)」で語学学校講師のアンドリューとその友人のスイス人ダリオたちと夕食を食べていた時のことだった。
カメラが見当たらない。カバンの中をいくら探っても出てこないのだ・・・
ダリオたちはビールを飲んでとても会話が盛り上がっているようなので、水を注す訳にもいかない。
僕はずっとみんなの話を聞きながらも手では、カバンの中をまさぐっていた。
でもカバンの中をいくら探してもカメラの感触を確かめることは出来なかった。
失くしたのはミラーレスの一眼で、僕にとっては安い買い物では無かった。
しかもこれから季節の移りゆくエストニアの写真を、そこそこ良いカメラでたくさん撮ろうと思っていたのに…
ミラーレス機と言ってもスマホで撮った写真とは雲泥の差がある。それでエストニアの街の風景や自然をたくさん撮って残しておきたいと思っていたのだ。
はじめ僕は焦燥し、そしてしばらくして落胆が背中から一気に覆いかぶさって来た。
なんで自分はこんなに不用心なんだ。
いつもどおり心の中で自分を責め始めた。
ホテルに帰ってから念のため色んなところを探してみるもやはりカメラは見つからなかった。
カメラはホテルの外で無くなったのだ。
その日はモヤモヤしたまま眠りについた。
紛失物が中々見つからない時って、人は他人や他の何かのせいにしてしまいがちだと思う。
でもまだ盗られたと決まったわけでは無い、何処かに置き忘れていった可能性もある。
語学学校で校長のカトリーンに落し物について聞いてみたが、校内ではここ数日落し物は報告されていないという。
その日の夜、2日連続で僕はスイス人のダリオとビールを飲みに行った(エストニアはビールも有名だ。「Saku ビール」という定番のビールがある。ヨーロッパではビールを飲もう)
※海外サイトから画像お借りしました。
僕はダリオにカメラを失くしたことを話した。
ダリオはこの時だけでなく、普段から優柔不断で曖昧な僕によくこういう物言いをしていた。
ダリオはスイス人だ。スイスではみんなスイス方言のドイツ語を話す。スイスのドイツ語は世界一率直な言語とも言われるほどだ。国民が直接選挙制で各々が手を上げて政治参加する世界一民主的な国家でもある。つまり国民みんなが自分の意見を表明するのに慣れていて、お互いに意見をぶつけた上で議論をすることにも慣れている。いわゆる低コンテクスト文化(空気を読むとか暗黙の了解を踏まえることの重要性が低く、実際に口から発される言葉の重要性がとても高い)というやつだ。雰囲気とか空気という言語化出来ない曖昧なものではなく、言葉や文章の重要性を極めて重視する。
対して僕が長い間話してきた日本語は、スイスのドイツ語とは逆で、世界でいちばん高コンテクストな言語と言われている。日本は「空気を読む」と言う言葉に表わされるようにコミュニケーションの中で、言葉以外によらない意思疎通が占める割合が世界的に見てもダントツに高い文化なのだ。
文化によるコンテクストの差 僕とダリオは真逆過ぎる
(※画像はネットの宇宙から適当にお借りしました)
この世界の言語文化の両極端に位置する意思疎通の差は埋められるのだろうか?
もちろん国の言語と文化の差の問題だけではなく、僕の優柔不断な性格の問題もあるだろう。
しかしヨーロッパでは、自分の思っていることは僕が思っているよりも、かなりハッキリと言った方が良いようだった。その後もエストニアで生活する中でハッキリと意見を言った方が良いことが何度かあった。
「察する・空気を読む」ことがコミュニケーションで重要な役割を果たすなんてことは、ヨーロッパではありえないことなのだ。エストニアも然り。
スイス人の友人ダリオが僕に尋ねた。
こちらに来てすぐこんなに親身になってくれる友人が早速できて僕は助かった。
でも僕は内心カメラの事をほぼ諦めていた。
海外旅行先でカメラを盗られるというのは、日本人が海外で遭遇する犯罪の一番典型的なパターンだと思う。おそらくカメラを何処かでカバンから抜き取られたか、テーブルに置いた隙に盗られたのだろう。
そう思いながら旧市街の中心にあるカフェに向かった。タリン特に旧市街はコンパクトなのでどこに居てもすぐに目当ての場所に着く。
着くとダリオがエストニア語で店員さんに話しかけてくれた。
ダリオはスイス人だがエストニア語も話せる。奥さんがエストニア人なのだ。
ダリオが話しかけてしばらくすると、スタッフさんは忘れ物を確認しに奥に消えていった。
そしてしばらくするとそのスタッフさんは、なんと僕のミラーレスのカメラを持って帰ってきたのだ。
まさか諦めていたカメラが返ってくるとは!
僕は今までの人生、何かトラブルがあるとだいたい悪い結果に転ぶことが多かった。だからなんとなく今回も帰ってこないだろうと思っていた。それが戻ってくるとは!
僕は仮に僕のカメラを誰か地元の人が見つけても、見つけた人がカメラを自分のものにして持って帰ってしまうのではと思っていた。
僕は日本以外で落としたものが返ってくることは基本的に無いものだと思っていた。それが返って来たのだ!
この一件からタリンの治安は想像以上に良いのだということを実感した。
そしてタリンの人々を泥棒ではないかと一瞬でも疑った自分を恥じた。
その後のタリンでの生活でも、犯罪の匂いを感じたことは一度も無かった。
極寒の冬場、夜に突然お腹が減って深夜2時に近所のファーストフード店に徒歩で行く時も、全く身の危険を感じなかったほどだ。
それにしてもカメラが戻ってきてよかった。せっかく外国に来たのに何も撮れないの無念だ。
無念に数ヶ月過ごすことにならずにすんで良かった。
後日、僕は校長のカトリーンにカメラが戻って来たことを報告した。
ひとくちエストニア語講座 Jah (ヤー):「はい(Yes)」の意味
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