母がアルコール依存症だと気づいてから10日間地獄を見た話。4日目
計算が出来ない
朝から母はゴソゴソ何かを探していた。
言ってくれたら一緒に探すけど。
今日はどこやったっけ…
けどどこやったかな…。
今日、返済をどこかにしないといけないのに、どこに行けばよかったのかわからなくなった。
と頭を抱えていたらしい。
こんな状態で考えることではないのに、気になることはお金のこと。
借金を返さなければならないという行為は
母にとって無意識レベルにまで染み付いていたのだ。
返さなければ恐ろしい取り立てが来る。
怖い思いをする。
だからどうしても返しに行かなければいけない。
だって…
(怖い思いをするから考えずにはいられない)
そんなに簡単に言わないでよ。
書類どこにやったかわからなくなるやろ?
えーっとどこやったっけ…
自分はこんな状況だというのにお金の心配。
しかも自分の借金ではない。
祖母が作った借金だ。
私は祖母が憎かった。
こんなになったのは元はと言えば祖母のせいじゃないか。
そんな人のためにどうしてそそこまで母はやるのだろうか?
理解ができなかった。
最近旅館で行われたらしい宴会の請求書が散らかっていた。
その当時は”ツケ”が多かった。
一ヶ月分をその月末に請求するシステムだった。
請求先に渡したかどうか不明な伝票が散乱していた。
母に尋ねてもわからないの一点張りだ。
母は何も考えることができなくなっていると感じた。
えーと…これは…
何の話かわからん。
まじか。
一体何が起こっているんだ?
お金を返したいと焦る割にはいくらをどこに返していいかわからず、
簡単な足し算が出来ない。
どうしよう。
お母さんが本当におかしくなった。
今度は泣き出した。
怖いと言って母が泣く。
わけがわからない私はじっとその姿をじっと見る。
幻覚、幻聴、てんかん発作
泣き止んだと思ったらまた落ち着きがない。
部屋の四隅をくまなく見つめていた。
立ち上がってまた部屋を飛び出した。
階段から落ちたら大変だと思い追いかけた。
2階の別の部屋に入ってドアの隙間から何かを見ていた。
表情がみるみる変わる。
眼をむき出しにして震えだした。
昨日のお風呂場での顔と同じだ。
ヤクザが来てるよ。
声がしたから隠れないと。
隠れないと。
どうしよう。そこにいるもん。
顔がこわばっていた。
体を小さく丸めてカーテンにくるまって
何とか隠れようとしていたが
声が聞こえると言ってこの部屋を飛び出していった。
追いかけた。
すると母がバタっと後ろ側に倒れた。
とっさに頭を打たないように私は頭を持った。
そのまま仰向けに倒れた母は全身が硬直していた。
両手両足がつっぱり、痙攣していた。
口から泡を吹いていた。
呼吸が止まるかもしれないと思った私はとっさに口をガバっと広げた。
舌を噛みそうになっていたからだ。
あまりの突然の発作に何が起こったかわからなかった私は焦って父に頼んで救急要請した。
母はそのまま気を失っていた。
脈だけはあったので死んではいないのだろうと思った。
救急病院で医師から説教
救急車に乗って隣町の病院へ行った。
病院に着いてすぐに母は目を覚ました。
起き上がり、ストレッチャーの上で正座した。
落ちそうで危なかったし、迅速な搬送の邪魔だった。
のんきな顔して言う母。
母の自由すぎる行動に勘弁してくれと言わんばかりの医療スタッフがいた。
その空気を感じて私はとても恥ずかしかった。
元気になった母を見て医師は診察するのが不服そうだった。
連れてくるべきではなかったのか?
あの発作を目にしていた私は本当に母が死んでしまうと思ったのに。
看護師さんとCT室に行った。
その時もストレッチャーの上で正座していた。
危ないし、恥ずかしいからおとなしく寝てくれと私は何度も怒鳴った。
なんで母は倒れたんでしょうか…
もっと重症な人を搬送しなきゃいけないんだよね?わかる?
もっと重症な人を専門に私たちは診てるんだよね、もうちょっと常識的に考えてもらっていいかな?
じゃあどうすればいいの?
来てはいけない?
なんで?理由を教えてよ。
わからなかった。
私と年齢の近そうな医師につき離されるように言われ、私は腹が立ってしょうがなかった。
どうしていいかわからなかったから病院に来たのに何も教えてくれないし、
説教みたいな事されるし、まじ気分悪い。
ますますわけがわからなかった。
母は病気ではないの?
だとしたらこの状態は何なの?
今夜も父と交代で母の見張り番をした。
睡眠不足が続いていた私は頭の整理が全く出来ずにいた。
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