フツーの女子大生だった私の転落と波乱に満ちた半生の記録 第5話
見かけは紳士的で優しそうに笑う人だった。
私が今日が初日だと言うと、無理に酒を飲まなくていいと言ってくれた。
こんな立派で真面目そうな人でも、こんな所へ遊びに来るんだと意外だった。
口下手な私は殆ど自分から話題を振ることも出来ず
飯島の昔話に耳を傾けることしかできなかった。
やがて暗転しショーにが始まった。
昨夜と同じくらい、私はウットリして観ていた。
「杏ちゃんもいずれは、あそこに立つんだろうね」
飯島が、艶やかなショーに目を細めながら私の耳元で囁いた。
「いえ、私なんか…まだまだです。」
何度も練習を重ねてやっと立てたとしても
センターから大きく外れた隅の隅だろう。
センターの子は店の1、2を争う売れっ子だと玲子さんから聞いた。
その時だった。
飯島が私の太ももの上に手を置いて
そのまま付け根の方へとゆっくりスライドしてきた。
さすがにスカートの内側に入ってはこなかったが
私はフリーズしていた。
そしてやっとの思いで、ほんの1ミリくらい顔を上げて
飯島を見上げた。
飯島は好色そうな目つきで私を見下ろし微笑んでいた。
身体中の毛が逆立つようにゾッとした。
私はその手の動きが止まるのを待たずに
ほんの少し腰を上げた。
そしてスカートの裾を直す振りをした。
飯島は手をさり気なくウイスキーの入ったグラスに戻した。
ちょうどショータイムが終わり普段の照明に戻った。
飯島は何食わぬ顔でタバコに火をつけた。
そして昔話の続きを話し始めた。
その目は変わらず穏やかな人柄が表れているものの
私にはさっきまでとは既に別のものに見えた。
黄色く濁った醜い欲望を持つ目だ。
男とはこういうものなのか。
こういう側面を誰しも持っているんだろうか。
最愛の古女房との出会いを懐かしそうに話しながら同時に
初対面の小娘に卑猥な気持ちを持てる生き物なのか。
女である私には理解できない。
いや、ここで働くと決めた以上、理解すべきことだったのだ!
彼らがここに集うのはなぜか?
仕事で身も心も疲れたオジさんたちは若いエキスを貪欲に求めに来るのだ。
しばらくして飯島の指名の女性がやってきて私はお役御免となった。
そしてまた新人として新たな客の隣に座った。
男の横にはすで指名の女の子がピッタリとくっついて座っていた。
私はヘルプという立ち位置らしい。
彼女が大げさに体をのけぞらせてケラケラと笑うたび
私も話が読めないながらも、クスクスと笑う演技をした。
私は、吹き出物だらけの若い男の言葉に相槌を打ちながら思っていた。
もう割り切ろう。
私はもう足を踏み入れてしまったんだ。
それでも
この時はまだ、よかった。
私が足を踏み入れた場所は
今想像する以上に汚れた、過酷な世界だと気がつくのは
もう少し先だったから。
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