就活から逃げてピアノを始めたらド素人が8ヶ月で最難関の英雄ポロネーズが弾けてしまった話(音源あり)
その演奏のダイナミックさにひきこまれた。僕の人生でピアニストを見て衝撃を受けることなんか全く想定もしてなかったので余計に衝撃的だった。
ド素人の僕がその演奏の魅力に完全に取り憑かれたのだ。
1985年頃日本で"ブーニン・シンドローム"と言われるほどブームが巻き起こっていたことを僕は後に知った。
狂ったようにピアノを弾き続ける日々
それから僕はブーニンをお手本に毎日ピアノに向かった。
アップライトピアノとグランドピアノの違いも知らない人間で、グランドピアノの蓋が開くことさえも知らなかった。
そういえば小学校の音楽室で先生が蓋を開けてたな・・・みたいなレベル。
ピアノのメーカーによって鍵盤のタッチの感覚が全く違うのも練習をするようになってわかった。
僕のピアノの練習方法はこうだ。
[1]その日にマスターしたい小節を楽譜を見て確認
↓
[2]資料室に言ってブーニンのLDを試聴
↓
[3]弾きたい小節の部分を何回も「再生ボタン」「戻るボタン」を繰返して、
ブーニンの指の動かし方、タッチの強弱、間のとり方をイメトレ。
僕自身がブーニンだと思い込ませる。
↓
[4]そのイメージのままKAWAIのピアノが置いてある教室に行って練習
↓
[5]その後YAMAHAまたはSTEINWAYのピアノが置いてある教室に行って練習
僕はこの1~5をルーティーンワークとして繰り返していた。
[4]のKAWAIのピアノでまず練習するのはKAWAIの鍵盤は重く弾きにくいと感じたからだ。逆にYAMAHAや特にSTEINWAYはタッチが軽く非常にひきやすい。だからまず練習のウォーミングアップはKAWAIで弾くようにした。
スポーツと同じで、例えば野球で言うとピッチャーが試合前に通常のバッテリー間より長めの距離で投球練習するようなもの。
重い鍵盤で弾いておくと軽い鍵盤で弾いた時にすごく上手くなったように感じる。
そして、
コンディションが良い時もあるし、コンディションが悪い時もある。
コンディションが悪いときはこれまでの復習に多めに時間を当てる。コンディションが良い時は多めに新しい小節を進める。
そういうことを常に意識して取り組んだ。
3ヶ月が経過したが・・・
そして、3ヶ月が経過。しかし、なかなか前に進まない。まだ序盤を練習している状態。
なめてた。
さすがに最難関の曲だけあって、例えば「ファ」から1オクターブ上の「ラ」の白鍵を片手で押さえないいけないという箇所がある。
一般の女性の指の幅だと普通に届かない。その場合は主旋律に影響しない音を抜くしかない。
幸い僕は手は大きいほうなので、「ファ」 から1オクターブ上の 「ラ」 の白鍵がなんとギリギリ届く。
けど、普通に鍵盤を押さえるのでは無理なので、鍵盤の側面をひっかけるようにこのように弾く。
なんちゅー曲や!
イメージトレーニングだけは欠かさない
けど、イメージトレーニングだけは欠かさなかった。
ピアノがない時は机の上でエアピアノ。鍵盤をイメージしながら指を動かす。頭の中はいつもブーニンの英雄ポロネーズ。
イメトレの重要さはこの時に学んだ。何度もブーニンのLDで映像を見る。その映像も常に手元が写っているわけではない。鍵盤が写っていないカットも多々ある。
その時はのぞき込んででも見たい気持ちになる。実際は見えないので、その場合は他の演奏者の映像を見て指の動きを参考にしながら、ブーニンの演奏に近い感じになるように注意した。
僕は何もわからない状態からはじめたので、とにかくブーニンを完コピしていた。一人でブーニンの表情のモノマネをしたりもした。
僕はこの八ヶ岳高原音楽堂で演奏されたブーニンのLDを何回LDデッキに入れて見ただろうか。
30日×7ヶ月だとしても200回以上は超えているだろう。
資料館の受付の人に同じLDの200回以上も貸出を申請したんだから、まあなんか病気なんだろーと思われてもいいレベル。
練習をすすめるほどこの曲の難しさがわかるようになってきた。弾くことが少し楽しくなってきた。
母親から電話がかかってくる
前にも言うただけどな、ボーナスをもらって安定した・・・
僕は「切るよ」とも言わず電話を切った。こういう会話はもう数十回とした気がする。
いかに自分の才能を活かして生きるか。才能のない人間は社会の役に立たない。
何の才能もない人間が就職して生きていくものだ、
と、当時はそんな視野の狭い価値観で生きていた。
これが弾けたら人生終わりにしよう
ピアノをはじめて4ヶ月。
この頃、僕は食中毒になっていた。
毎日激しい下痢におそわれていた。
けどそんなことは言ってられなかった。
スピードアップしないと、この"バーチャルプロジェクト"さえも達成できずに終わってしまうことになる。僕はしんどくなったら鍵盤の蓋を閉じて、その上で仮眠をとりながら練習をした。
今のペースではまずい。
僕は練習時間を増やすために、ピアノが使える教室に朝早く行って、夜誰もいない時間を活用した。早朝7時に弾くピアノは爽快で気持がよかった。この時間は掃除のおばちゃんがいた。
ひたすらピアノを弾いてるんですなんか言えない・・・)
学生なんだけど、こうやってあなたみたに才能があればいいんだけど。
(全然羨ましくないぞっ!)
それから掃除のおばちゃんは、僕に会う度に話しかけてくるようになった。
いつも朝早くからピアノの練習をしている僕の姿を見て、褒めてくれたりなぜか応援してくれていた。けど、掃除のおばちゃんに褒めれる度に僕は憂鬱な気持ちになった。
著者のレンガさんに人生相談を申込む
著者のレンガさんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます