⑥私が「私に暴力を振るい続けた死にゆく母を笑顔で見送るべきか(長文です)」と知恵袋に書き込んだ者です。

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 私には結局、日の当たらない布団1枚敷かれただけの5畳の部屋を与えられた。

 17の春まで隔離された部屋。家を出るまで何度そこから飛び降りようと思ったことか。


 新しい家に来てから数か月の間、《毎回夕食は家族5人で食べよう》という母親の茶番に付き合わされた。

 夕食を食べる間、祖母は私を睨む睨む。私への憎悪を隠せない。隠そうともしない。まあ、それもそのはず、祖母はこの一つ屋根の下、唯一家族の誰一人として血のつながっている人間はいないんだし、当時真っ黒に日焼けしたお世辞にも可愛い容姿ではなかった私に、愛想良く振る舞う義理もなかったのだろう。

 私は彼女の視線に気づかぬふりをし続け、また「醜い子だね」などと言われる前に、夕食をよく噛みもせず、素早く食べては2階の物置小屋へ駆け上がっていく。これがのちに幼い私を肥満にさせた要因の一つだったのかもしれない。

 私の思い出す限り、毎回食卓を囲む誰一人として、一言も発することのない夕食だった。

 誰も「これ美味しいね」とも、「おかわり」とも言わないし、皆が席に着くと「頂きます」の一言もなく食事は始まっていた。

 《仮面夫婦》ならぬ《仮面家族》だ。

 新しい綺麗な家の中だというのに、笑顔溢れる幸せな家庭なんて無い。


 祖父母と同居するようになってから、私の母親の性格はどんどん歪んでいった。

 元々、近所の人やテレビ中の有名人の悪口をよく言う母親ではあったが、右半身不随の祖母の介護というストレスもあってか、私にも私の父にも当たり散らすことが多くなった。

 祖母の介護というのは主に、朝、祖母を介護ベッドから起こす事、訪問介護士の数人と一緒に移動式風呂に入れてやること、祖母が移動時に使う杖を落としてしまった時に拾ってやることなどだ。

 この時期にはまだ、祖母は自力でトイレや食事をでき、大好きなカルト宗教の教えのもと毎日仏壇を前に呪文を唱えられていた。私の母親も祖母に影響されて同じ宗教を信じ切っていた。毎日毎日、何度も大きな声で《魔法の呪文》を唱えやがる。数珠の音も耳障りだったらありゃしない。

 おかげでのちに私は宗教全般を毛嫌いするようになった。そんな《魔法の呪文》を唱えれば自分の願いが何でも叶えてもらえるなんて馬鹿な話、無いだろう?


 この家に越してくるまでは両親との会話はまぁまぁあったと思う。

 今の家族ではよくあるハグやチューは1度もすることもされた事もなかったが、小学校の友達の話や欲しいおもちゃの話など、それまでは自分から話し始められた。ただ、両親は私をかばってくれる事もしないと分かった後はもう、私の不安や不満を伝えたところで彼らは何もしてくれないんだろうなと感じた。


 《いいんだ。別にいいんだ。家の中が今、こんなに楽しくなくたって。

私には学校がある。新しい学校には1学年に6クラスもある。友達が沢山できるはずだ。

そうだ、学校初日は大きな声で、ハキハキと自己紹介をしよう。

早く皆に溶け込んで、たっくさん友達を作るんだ》


 私は内心、そう意気込んでいた。


 新しい学校での初日。

 全校生徒が体育館に集まり、有難い校長先生の長話や新しい校歌を聴く始業式に出席した。進級する新学期ともあって、4年生で転校してきた生徒は私の他に男の子が1人いた。

 予想通り、始業式の後に体育館に残された4年生全員の前で、自己紹介をさせられる。

 まずは男の子のほうから自己紹介をさせられたが、正直何言っているのか、隣にいる私にさえ聞き取れないような小さな声だ。


 《私は違うぞ!》 


 そして私の番。

 「仙台から引っ越してきました、及川美香です! 前の学校ではミカンと呼ばれていました!

 マイブームは交換日記ですが、今は新しい交換日記をする相手を探しています! 仲良くしてください!よろしくお願いします!」

 

 《言えた。我ながら、立派に大きな声で言えた!》


 担任の先生:「上手に言えましたね。ミカンちゃんだそうです。皆さん、お友達になってあげてくださいね」

 生徒全員:「はーい」



 私は想像もしなかった。この自己紹介がマズかっただなんて。

 この日から間もなく、私は学校の大半に嫌われ始める事となる。

 家の中のみならず、学校にも無数の敵が現れたのだ。






 


 

 


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