アルコール依存症の母が死をもって私に気づかせてくれたこととは。
全部母が酒ばかり飲むからこうなったくせに巻き込まないで欲しい。
と私は恨み、憎み、怒り、殺意までおぼえるようになっていた。
母の状態、態度によって私は自分の気持ちをかなり揺り動かされていた。
結果私は母の行動に対処する時における怒り、嫌悪感、恨み、憎しみ、殺意というマイナス感情の毒素を溜め込み続け、自分で自分を傷つけていたのだった。
アルコール依存症という病気の正確な認識とは
アルコール依存症とは「酒をやめたくても飲み続けてしまう」病気であり、
母の意思とは関係なく酒を飲んでしまう、という病気だ。
母は自分ではどうしようもできないアルコール依存症という病気に縛られていた。
アルコール依存症者が選択できるのは、酒を断つか、死ぬまで飲み続けるかの二つしかない。
私は母が酒を飲まずにいられるかどうかだけに注目し、何があっても酒を飲み続ける母を
ダメ人間扱いしていた。
借金に追われてアルコール依存症になった、という母の現実は受け入れるしかないものなのに、
結局出来なかった私。
多額な借金を抱えながらもそれを返そうと心を病むほど一生懸命生きていたのだ。
それはもしかすると、私たち家族のためだったかもしれない。
そんな現状を私は受け入れ、母をリスペクトし、自分の抱えているマイナス感情という毒素を出すことに専念し、自分の抱え込んでいるマイナス感情で自分を傷つけずにもっと自分を大切に生きる道を選ぶということが私にとってはもちろんのこと、アルコール依存症の母にとっても最善策だったのだ。
そんな自分のことは振り返らずにアルコール依存症の症状ばかりを勉強し、
それに対処する術を身につけずにいた私は
15年間毒素を抱えたままの自分を棚に上げ、母を攻撃し続けた。
そんな私は異様なまでに自己肯定感が低く、
自分のような人間が周囲に受け入れられるはずがない、
だってアルコール依存症の母を持つから。
結婚なんて考えられない、
だって面倒くさいアルコール依存症の母がいるから。
短気でこらえ性がなくキレやすくなってしまったじゃないか、
だって母がしょっちゅう私を怒らせるから。
結婚できないのもキレやすいのも自分が周囲とぶつかるのも全部自分の問題なのに
それは一旦棚に上げ、母の病気のせいにしていた。
自分がうまくいかないことを全部母のせいにして自分の問題と母の酒の問題を自分に都合よくすり替えていただけ。
これは母の問題ではない。
自分の問題だということに母が死んでやっと気づいた。
後悔する私、そして…
母が死んで、やっと死んだと安堵した。
面倒くさいのからやっと解放されたと思った。
そしてケンカ別れだった最後の日を思い出して悔しい気持ちになった。
自分が素直に正直な思い、心配なんだ、という一言が言えなかったこと。
数日経つとこれまでのことが思い出されて悲しくなった。
涙が止まらなかった。
後悔の涙だった。
その後悔とは、
私の問題だったのに母のせいにし続けたことだ。
私は母のありのままを受け入れることができず、母の存在価値を認めることができなかった。
アルコール依存症の人の回復に必要なのは、
あなたには生きてる価値があり、あなたの存在は私たちにとってなくてはならないという
その人の価値を十分に認める人間関係 だそうだ。
母の存在価値を内心認めることができない自分が、生きている価値を認めてくれるのが必要な母と
うまくいくわけがない。
アルコール依存症でなくとも人は自分の価値を他人から認められたい生き物なのに。
他人を変えることはできない。
自分は変えることができる。
飲まないで欲しいと思ってもアルコール依存症という病気の性質上、
自分にはどうすることもできない。
自分にどうすることもできない欲求は捨て、酒を飲む飲まないは本人に任せ、自分は関わらない。
マイナス感情という毒素をデトックスし、安定した感情を取り戻すことに専念し、
健康な日常を送ること。
借金まみれになりながらも一生懸命生きた母の存在価値を受け入れること。
私は母が死んでずっと悲しみから回復できなかった。
私にとって母はなくてはならない存在だった、ということだったんだ。
死んで認めたってしょうがない。
生きてる間に認める必要があったのだ。
そして私が母の状態によって自分の気持ちが揺れ動くということがない自分になるまでに回復することによって自分で自分を傷つけることなく、私も母も救われる。
15年間苦しみ続けた私が解放へ向かう方法を学ばなければならない。
たくさん悲しい思いをしてやっと自分の感情と問題に向き合った。
アルコール依存症になった母から何も学ぼうとしなかった私に
母は永遠の別れをもって気づきを与えてくれた。
周囲の人も、自分も幸せになるためには
自分を大切にしなければならないということを。
参考文献
森岡洋 著 「よくわかるアルコール依存症 その正体と治し方」白揚社
水島広子 著 「自己肯定感、持っていますか?」大和出版
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