フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第17話
脅迫
《これまでのあらすじ》初めて読む方へ
大学生の篠田桃子は、あることがきっかけでショーパブでバイトを始める。田舎の母や大学の助教授の苗代の心配をよそに、次第に指名も増え、店での地位や財力に野心を燃やすようになる桃子。ある夜、桃子は店の売れっ子限定出演のショーに出演し張り切っていた。ところが、踊り出してふいに客席を見渡した桃子の視線が突然止まり、ある人物に釘付けになる。その人物とは一体…?
その男の目は笑っていた。
その視線は絡みつくように私が舞台から消えるまで離れなかった。
なんで…
なんであの人がいるの?
よく状況が飲み込めないまま
私は更衣室に向かった。
途中で佐々木が
「おいおいデビューだぜ、もっと嬉しそうな顔しろよな〜」
と声をかけてきたので
振り返ると、佐々木の隣で玲子さんが微笑している。
いつも通りの玲子さんの顔だ…
ミホを…追い出したくせに
あんな凍りつくような冷たい表情したくせに
「そうよ。杏、これであなたもこの店の看板スターの1人。
ここまでよく頑張ったわね。でもこれからよ。期待してるから」
私は微かに口元を綻ばせ頷いた。
どうせ売り上げの足しになるくらいにしか思ってないくせに…
更衣室で着替えながら
さっきの顔を思い出していた。
あの目はいつもの彼のものじゃなかった。
獲物を狙うような
そう、ここに来る客の男たちが私に向けてくる目だ。
なぜ
なぜ、先生が…
あの苗代先生がそんな目を…
その答えは意外と早くわかった。
男は深くソファに腰をかけ、ネクタイを緩めながら私を見た。
「また、来たよ」
私は目を合わせず、水割りを作っていた。
「いやあ、こんなところで君みたいな優秀な学生に水割り作って
もらえるなんて人生わからないものだねえ」
私は黙ったままカラカラと混ぜ棒を回し
出来上がった水割りを苗代に前に置いた。
苗代は薄笑いを浮かべ、グラスの縁に口をつける。
「君が夢中になっているものってコレだったんだね」
私も、お冷の入っているグラスをひと口飲んで
苗代を見返す。
「どういうつもりなんですか」
「え?どういうつもりっていうのは?」
私は昨夜ここに突然現れ、また今夜もこうしてやってくる
苗代の心理が理解できなかった。
「あ、大丈夫だよ。別に大学には言わないし」
「そういうんじゃなくって」
「あれ、違うのかい。じゃあ、なんで
俺が君がここで働いてるって知ってるのかって話かな?」
私は、気になったのでそのまま苗代の次の言葉を待った。
「単純な話さ。可愛い教え子に、よからぬ噂が流れていたからねえ。
後をつけさせてもらった。でもビックリだよ。
こんな場末のバーで裸みたいなコスプレして踊ってんだからさ」
苗代は淡々と話している。
私は顔を紅くして、わずかに下を向いた。
そして苗代は突然、無表情になり
「火」と言った。
ライターの火だと分かるまで一瞬迷った。
「火」
苗代はもう一度そう言い、タバコをくわえた。
「あ… はい」
私は素早く火をつけた。
「そんなんで、ここの店の売れっ子務まるのかな。
聞いたよ。指名客、結構いっぱい取っているらしいね」
苗代は煙をゆっくりと吐き出しながら
私のミニスカートの裾から
伸びている網タイツに覆われた足を
横目でチラリと見た。
「ま、よかった。不幸中の幸い。僕ね、君が売春してんじゃないかと
心配していたんだよ、実は」
「え…」
「実際にね、君が売春しているという噂が流れているんだよ」
「そんな…」
「信じられないって顔してるね」
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