③幼き日の傷が残したもの…
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ど~したの!?
今日運動会だよ!
私は叫んだ…
すると母は、それには答えず『食べるの?…』と聞いた…
思わず父を見たが、きまり悪そうに下を向きながら私から目をそらした…。
私はこの状況の意味がわからず、食べない!と言い捨てると、表に出た…
涙が溢れてきた…
昼休みが終わるまで、ウロウロと時間をつぶし、何事もなかった顔をして、私は運動会に戻った。
でも、本当に惨めだったのは、翌年だった…。
次の年の運動会の朝、台所のテーブルの上の、父の使い古しのアルミの弁当箱を指差しながら、『お弁当…』と母に言われた。
つまり運動会には来ない…という事だ。
私は何も言えなかった…。
黙って袋に弁当箱を入れ、学校へと…
道すがら、誰にも見られず、いったい何処でひとりで弁当を食べるか…頭の中はその事で一杯だった。
競技中も、昼休みが来るのが恐くて気もそぞろだった…
そして、昼休みが来てしまった…。
私は家族を探すふりをして、素早く誰もいない校舎に入った。
足音を忍ばせて…
酷く悪い事をしているような、息が詰まって苦しかった…
ようやく自分の席にたどり着き、机にお弁当箱を置いたが食べる元気はなかった…
机に突っ伏して、息をひそめるようにしていると突然、『何してるんだ!』と大きな声が…
私は、飛び上がった!
みると学年主任の男性教師が…
私は暫く固まってしまって、何も言えなかった。
すると先生は『家族の人は?来れないのか?…』
私は、小さくうなずくのが精一杯だった…
すると、『そっかぁ~俺もここで食べるかぁ~いいよな?』…と言うと教室を出てる行った。
弁当箱を持って戻って来た学年主任は、無言でムシャムシャと食べ始めた…
今まで、1度も話た事もなかった学年主任と二人きり、向かい合わせの食事は、凄く息苦しかった…
でもひとりで息を秘めてたさっきよりは、ずっとよくて、どこかホッとしてた…
翌年から運動会の昼休みは、全生徒教室でお弁当を食べる様になった…
今、思うと私の事からだったんじゃないかと思うが、その時はその変更が、心の底から、嬉しかった…。
続く
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