⑥幼き日の傷が残したもの…
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母と私の激しい争いは、毎日のように繰り広げられた…
酷く世間体を気にする、人様の前では品良く奥様然の母が、狂ったように、私に拳をあげた…。
そんな家庭にいて、妹もかなり苦しい、辛い想いをしていたのを、私は随分後になって知った…。
いつも優遇され、可愛がられる幸せな子…
とばかり思っていたが、妹も大きな傷を負っていたのだ…。
毎日の様に言い争い、泣き叫ぶ私を叩き、髪を掴んで表に引き摺り出す母…
妹はいつも、母と私が不穏な雰囲気になると、自分の部屋に逃げ込み、頭から布団を被って騒ぎを治まるのを待っていたらしい…。
妹は増築した部屋を、自分の部屋として貰い、ベッドやら、ステレオやらが置かれた、陽が燦々と入る窓に、可愛いカーテンで飾られたその部屋によく籠っていた…
私は…というと…
あちこちから贈られてくる贈答品の箱が積まれた納戸のような部屋に、父のお下がりの古い机と、布団、古いタンスを与えられ、そこで寝起きしていた…
そして母は、妹に私と口を利くのを禁じた…
私が妹に接するのを、ひどく嫌ったのだ。
母の前で妹は私と口をきかず、一切私の問いには答えなかった…
でも母の目がない時は、お互い息をする間もない勢いで、夢中になって話た…母は見つけると火がついたように怒った…。
そんな日々を、本当は妹はどんな想いでいたのかを知ったのは、互いに大人になり、妹がある宗教にのめり込み、私に事あるごとに入会を奨めるようになった時だった。
人が何を信じようと、どんな宗教に入ろうが構わないが、私を度々勧誘する妹に苛立っていた…。
そしてある日、溜まりかねて…
『そもそも、何故宗教に興味を持ったの?!止めはしないけど、私はほっといて!』と…
すると、一瞬怯んだ妹は、意外な事を…
『お姉ちゃんの事がきっかけだよ…』
私は、思ってもいない答えに、何それ?私がなんで関係あるの!…
妹は、泣き笑いのような顔をして、私の顔を見ながら話出した…
お母さんがやってた事、子供ながら酷いと思ってた…
でも、私は何もしなかった…
一度も助けなかったし、庇う事もしなかった…
なんて私は最低な人間なんだ…なんて嫌なヤツなんだろうって、大きな私のコンプレックスだった…
その苦しさを何とかしたくて、入ったんだ…
考えもしなかった事に、私は驚いた…。
そして妹は妹で、ずっ~と苦しかったんだ…辛かったのね…
何の因果でお互い、あそこに生まれたのかね…
二人でため息つくと、小さく笑った。
続く…
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