マクドナルドで役立たずだった僕が、仏像彫刻家として生きて行くまでの話

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ハンバーガーすらまともに作れない。

落ち着いてゆっくり作ったら上手くできていても、

スピードが勝負のファストフードで急かされてしまうと、

どうも上手くできなかった。


しかし、僕はくじけず様々なアルバイトをした。


ガストのデリバリーを始め……、3日で辞めた。

(バイクで事故って両手を骨折したと嘘をついた)


引越し業者に行き……、1日で逃げてきた。

(社員の人が怒鳴り散らすから怖くなった)


でも、釣具屋でアルバイトした時は楽しかったな。

お客さんと釣りの話をしたり、店長と話したり、仲間と釣りに行ったり……。

その中でも一番忘れられない思い出と言えば、やっぱりあれだな。


その日、僕は一人で店番をしていた。

そこに釣り好きのおっちゃんがやってきた。


「兄ちゃん、大学生か? アルバイト頑張ってえらいやん!」

「はい! ありがとうございます」

「しかしあれやなー。最近暑いな。そうや、今日は帽子買っていこうかな」


おっちゃんは、帽子コーナーで色々と試着し始めた。

僕は、色々試して見てくださいとだけ伝え、

事務作業をしながらレジで待っていた。


その時だ。


「ちょっと兄ちゃん、見てくれや」


その声に視線を上げると、おっちゃんの姿が目に飛び込んできた。


え!?


「これ、どうや? ええと思うんやけど」


僕は笑いをこらえるのに必死になった。

だって、おっちゃんの頭はつるっぱげ。

なのにおっちゃんが選んだのは、

真っ赤なサンバイザーだったのだ。


「い、いやー、いいんちゃいますか?」


震える声を必死でこらえる。


「せやろー。これにしようかな」


おっちゃんは、鏡の前で何度も角度を変えながら眺めている。

それでもハゲた頭の頂点には目がいかないらしい。


「兄ちゃん、これにするわ! ありがとうな!」


少年のように爽やかな笑顔のおっちゃんは、

心底、真っ赤なサンバイザーを気に入ってくれたようだ。



いやいやいや!
一番大事な頭のテッペン守れてへんやんけ!



僕は猛烈にツッコミを入れたかった。

でも、このおっちゃんはお客さん。

しょうがなく僕はレジを打ち、おっちゃんを見送った。



悩める就活生が見つけた意外な道



呑気なアルバイト生活をしているうちに、

あっという間に大学3年生になった僕は悩んでいた。


「就活」


この言葉を口にするようになってから、僕の周りはガラリと変わった。

赤や金、カラフルな頭をしていた友達は、一斉に黒一色になった。

髪の色だけじゃない。

服も、靴も、鞄も、皆真っ黒になったのだ。


このまま僕も
真っ黒な社会に出るのだろうか……。



毎日僕は自分に問いかけるようになった。

かと言って、特にやりたいこともない。


だいたい僕はどんくさい。

こんな僕を受け入れてくれる会社などあるのだろうか。


アルバイトすらまともに続かないし、

周りの人からはいつもぼーっとしているとか、変だとか言われる。

僕はあくまでも「普通」にしているだけなのに、

どうも周りからは「普通じゃない」ように見えるらしい。



はあ……。
僕はどこに行っても役立たずなのかな。



そんな時、僕はふらっとある場所に行った。

ぼーっとした頭で、本当にただ立ち寄っただけだった。

まさか、あの場所が僕をこんなにも変えてくれるなんて思いもしなかった。


そこは、ひっそりと厳格な空気に包まれていた。

中に入ると、ひんやりとしていて、シーンと静まり返っている。


「わあっ……」


思わず声が出そうになった。


僕が行った場所は、奈良の東大寺。

東大寺といえば奈良の大仏が有名だが、僕が釘付けになったのは

もっとひっそりとした所に安置された仏像だった。


「持国天」という仏像に、僕は釘付けになった。

強そうな甲冑に身をまとい、

今にも怒り出しそうな厳しい表情し、そして手には大きな剣を持っている。

攻撃性の強い風貌の仏像だけど、

僕はなぜか、そこから優しさを感じとった。


——お前はこのままでいい。ありのままでいいのだ。

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