白いクレヨン

著者: 成澤 郁

「何のために生まれて……何をして生きるのか

……ハァ。」

白クレヨンは溜息をつきながらアンパンマンのテーマソングを口ずさみます。

真新しい12色入りのクレヨンセットとして生まれた日から、他の仲間は毎日楽しそうに仕事に行き、充実した笑顔と共に、少し縮んだ姿になって帰ってきます。

「はぁ…、今日もぼくは出番なしかぁ」

隣からは仲間の楽しそうな声が聞こえてきます。

「明日は海の絵を描くんだって、実際に海に行って描くんだって、やったー!青くん大活躍だね頑張ってね!」

「色とりどりのお魚や海草を描くの楽しみだなー」

「ハァ。」白くんはまたひとつ、溜息をつきます。

前に一度だけ仕事をしたときのことを思い出しました。

赤さんが塗ったお花の色が線から少しはみ出した時の事です、白くんは赤い色の上からごしごし擦られました。

でも、はみ出した赤色は白に戻るどころか、赤色が伸びてしまい、かえってグチャグチャになってしまいました。それ以来、白くんは一度も仕事に出たことは無いのでした。

白くんの頭に、少しだけ赤い色が乗っているのはそのためです。

白くんはまた口ずさみます

「何のために生まれて……何をして生きるのか…」

その様子をじっと見ている仲間がいました。

それは赤さんです

次の日 

さぁ、海に着きました。

仲間達は早速、次々に仕事へ出かけます。

青い海に、黄色い魚、緑の海草に紫色のウミウシ!

羨ましそうにその様子を眺める白くん。

するとそこに、ビショビショに濡れた赤さんがやってきました

「白くん?ちょっと来て!!」

白くんは戸惑いながらも赤さんについていきました。

そこには大きくて真っ白な画用紙が用意されていました。

「さぁ!思いっきり描いて!!」

え?描いてって言われても……

「じっとしてないで、ほらっ、描いて描いて!」

白くんは戸惑いましたが

紙の上を恐る恐る滑り出します。

「あぁ、この感じ、気持ちいいな嬉しいな、もっともっと描いていたいな……何のために生まれて何をして生きるのか……」

「答えられないなんて、、そんなのはイヤだ!!」

赤さんが続きを歌いました。

ハッと気付くと、白くんは随分短くなっていました。随分長い時間描いていたようです。

でも……白い大きな画用紙は、真っ白なまま。

白くんは現実に引き戻され、また溜息をつこうとしたその時です!

「お願いします!」

赤さんが叫びました。

すると何かが画用紙に向かって勢い良くかかりました。

ビューーー!!

驚いて画用紙を見ると…

真っ黒に染められた画用紙に、白くんが描いた素敵な星々の絵が浮かび上がっていたのです。

驚いて振り向くと、そこには赤さんと一緒にタコのおじさんがニコニコ笑っていました。

赤さんが照れ臭そうに言いました。

「タコさんを探すのに少し手間取ったけど、白くんにどうしても元気を取り戻してもらいたくて……それに君の絵、なんて素敵なんだろう!」

それから、仲間の元に戻った2人は

元気いっぱい書き始めます

赤さんは大きなタコ!

白くんは……

海の青がキレイに透けて見える可愛いクラゲを描きましたって。

「何のために生まれて 何をして生きるのか 答えられないなんて そんなのはいやだ!

今を生きることで 熱い心燃える

だから 君は いくんだ微笑んで

そうだ うれしいんだ 生きる喜び

たとえ胸の傷が痛んでも」

(アンパンマンのマーチより)

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