フィリピンで警察に捕まって帰れなくなった日本人の話パートⅣ
「ただ・・・」
男は急に部長の目を外し少し太陽がまぶしいしぐさを取りながら問題を切り出したといいます。
「今回は事件が大きいため、たくさんの根回しが必要になってきます。」
「根回し?・・・・金・・・ですか?」
「はい、やはり事件が事件ですので、早期解決はその方法が良いかと・・」
「わ、わかりました。すぐに釈放していただけるなら用意します」
むしろ日本式の筋論で切り抜けようと思った部長でしたが、もうそんな悠長な事をいってられない状況でした。
「わかりました。すぐに手続きをとりたいので、とりあえず日本円で100万円用意して頂けますか?」
「100万円ですか!」
いつ日本に帰れるかわからない不安のほうが大きく、仕事を休むことを考えたら100万円はしょうがなきい気がしてきました。
「こうなったらしょうがない、それですぐに釈放してもらえるなら」とアロハ君と部長はその男の言うことを聞き、とりあえず100万円の払う約束をしました。
「手持ちは無いでしょうから、とりあえず私が100万円を立て替えます。日本にある私の口座に100万円を振り込んでください。確認出来次第すぐにでも動きます」
すぐに釈放されたい一身で部長は日本に居る家族に連絡をして彼の口座に100万円を振り込んだそうです。
「振り込んだと家族から連絡がありました。もう釈放してください」
「いえ、もう銀行が閉まっている時間です。明日、朝一番に確認してから動きましょう」
そういい残し、男は帰っていったそうです。
翌日、男のから入金は確認できた。動いているので安心して欲しいと連絡がありました。しかし午後になっても男は警察署にはあわらわれずその翌日になってようやく男が現れました。やっと釈放してもらえるとアロハ君も部長の安堵したといいます。
ところがその男は
「部長、申し訳ない、事件が大きすぎで市長レベルでは止められない、もっと大きな人を動かさないといけなくなった。」
部長から振り込まれたお金はすでに根回しに使ってしまい、より大きなコネを利用するには大きな金額が必要だと説明を受けました。
「今度こそ、間違いなく日本に帰れます。私が保証します。」
「いったい、おいくらで・・・」
「300万円」
「さ・・300万円?」
「もちろん払わなくても私が責任をもってお二人を守ります。安心してください、ただ、やはりフィリピンスタイルですから時間はかかります。一年後か、二年後かそれはわかりません」
頭の中が白くなったというより、深い暗い海の一番深いとこへ沈んでいく心境でしたと部長は言います。
「ひろし・・・どうする?」
「そんな金払えるわけ無いじゃないですか?そもそも部長が安心しろって言ったからじゃないですか?如何してくれるんですか?」
結局その日も釈放はおろか、より、状況が悪くなった心境でした。部長の家族や社員からも早く帰ってこないと部長までが危険な目に合いかねないとパニックのような電話が矢継ぎ早にかかってきたそうです。
「俺はいったい何をやってるんだろう・・・」
そういえば、昨年、町の青年部の旅行でもひろしは酔って宴会場のガラスを割った。廊下とカラオケの会場を結ぶ大きな一枚ガラスだった。部長の懸命の謝罪と旅館の好意で弁償は免れたが、その旅館は恥ずかしくて二度と使えなくなった。
「あいつは旅行になると問題ばかり起こして人に後始末をさせる」
次第に情けない気持ちと腹立たしい気持ちが錯綜して、どうでも良い気持ちになってきた。
毎日通っているホテル、延泊してるけどいったいいくらになるんだろう?食事は切り詰めてハンバーガーを買った。
ほとほと疲れ果てて、部屋に帰る元気も無く、ホテルのロビーに無気力に座ってホテルを出入りする人を見ていた。
大きなスーツケースを持って楽しそうに会話をしている欧米人。ビジネスマンらしく足早にロビーを通過する人。これから遊びに行こうと話し合っている中国人。
それにくらべ自分はどうだろう。300万円をはらったところで帰れる保証は無い。しかし300万円を払わなければすぐには日本へは帰れない。
ひろし一人残して帰るわけには行かない・・・自分の無力さにほとほと疲れた。
ロビーのソファーにもたれ無気力に通り過ぎる人を見ていると見た事のある日本人が入ってきました。
なにやら楽しそうに電話の向こうと話しています。そもそもあいつを詐欺のグルだと思ったばかりに始まった事。あいつの話を信用すればよかった。
そう思うと自分が情けなくなってきた。今の自分を見られるのも恥ずかしい。「結局出来なかったじゃないですか?」といわれるのもしゃくだ。
ただ、自分が誤解して相手に悪い言葉を投げかけた事だけは謝罪しよう。
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