姉として妹の夢を叶えたかっただけなのに、給食のおばちゃんからローチョコレート職人へ昇華した妹の話<1章>
「あのさ、ローチョコ、やんない?」
私が妹にこのたくらみを話したのは3年前の秋の初めだった。
実家で求人票を眺めため息をついている妹に声をかけた。
ちょっとズルいんだけど、この話を切り出すタイミングは「いまだ!」と思ってしまったんだよね。
私が急に予想もしないことを言いだすことに慣れていた妹だったが、
「ローチョコ」という初めて聞く言葉に返事をしようもなく「?」という顔をし、首を傾げていた。
妹の長男(自閉症)が大きくなり、次男ももうすぐ保育園。
今までのような勤務体制でも厳しくなってきた妹は子供最優先で生活を送れるように、と他の仕事を探すように。
しかし、求人を探せど自分の都合が最優先される仕事などあるわけもない。
この葛藤は「ママ」をやっている女性なら一度くらいは感じたことがあるだろうと思う。
なぜなら、かくいう私も「子供がいることで就職ができない」という現実を目の当たりにしてフリーランスという道を選んでいる。(勘違いされがちだが、私も妹も決して会社勤務が嫌で独立したわけではない。せざるを得なかったのだ)
私も妹と甥たちの生活ぶりをいつも見ていたし、妹にとっても甥たちにとっても一番いい形のワークスタイルはないだろうか?とずっと考えていた。
求人票を眺める妹の姿は、私にとっては「自営業」に引き込む絶好のチャンスだったのだ。
『大きくなったらお菓子屋さんになりたいな』
私「…ってアンタ、言ってたじゃん?」
妹『は?そんなこと言ったっけ?』
私「…………(遠い目)」
一瞬だけでも
「妹の小さなときの夢を、姉の私が叶える手伝いをしてあげられるかも!こんなこと覚えてた私って…いいおねーちゃんじゃん!」
と思ってしまった自分の気持ちは正直、北風にさらされたようだったが…(笑)
それでも妹なら「ローチョコレートの道」でやっていけるという未来絵図が私には見えた。
なので、薄っぺらではあったが私が知っている限りのローチョコレートの情報について伝えた。
・食べるだけで肌や髪がきれいになること
・食べても太らないこと
・虫歯にならないこと
・糖尿病の人にも低リスクで味わってもらえること
・300種類以上の豊富な栄養素が活きたまま摂れること
そして、
・脳に働きかけるチョコレートであること
これが妹の目の色を変えた。
認知症の予防にも良いとされるローチョコレート。
妹も私と同じチョコレート中毒で大人ニキビに悩んでいたが、本当に喰らいついたのはそれが理由じゃなかったように思う。
甥の発育に必要な「何か」が「ローチョコレート」の中にあるかもしれない…と感じとってくれたのだろう。
ズルいって分かっていた。妹を焚きつけるつもりで話をしていた自分がいた。
数年後の今日、妹もこれを読みながら「うわぁ、姉やん、計算高いわ!」と言われようとも、
それでもその時、「今、妹の心を動かさなきゃ!」って思ってしゃべり続けていた気がする。
急展開な話を妹は全て飲み込みきれてはいなかったけど、数分後
『よくわかんないけど、ローチョコ、調べてみる。
ねーちゃんが言うなら、なんかいいものなんでしょ?』
と求人票をしまい、妹は甥たちを連れて実家をあとにした。
【甘からず苦からず、決して旨からず】
初のローチョコレートが試食品として私の目の前に並んだのはローチョコレートの話をした1か月後のこと。
もともとお菓子作りが好きだった妹にとってローチョコ作りはその延長だったのだろう。
最低限の道具はすでに揃っていたし、必要な道具を少し追加し、材料を揃え、YouTubeで動画を調べ、見よう見まねで「ローチョコレート」を作ってきた。
ファーストトライのローチョコレートはシンプルな黒一色ではあったが、
可愛い形のシリコンモールドで成形されたため、見た目は洋菓子店に置いても見劣りしない美しさだった。
「これが…ローチョコレート!!!」
『うん、作ってはみたんだけどさ、味見して?』
私も妹も、ただのチョコ馬鹿姉妹でしかなかったが「美味しい」と言われるチョコレートなら各々いろんな銘柄を食べていた。それなりに舌は肥えていたつもり。
私がかつて日本を飛び出す家出をしたときに買い漁ってきたヨーロッパの喉が痛くなるような甘いチョコレート、カカオ99%の「苦いだけ」のチョコレート、一粒数百円のものまで。
だけど、ローチョコレートにいたっては「旨さ」の基準を知らなった。
だって…新潟には売っていないんだもの(笑)
妹も味見をしながら作ったものの、これがローチョコレートなのかどうかの判断がつかなった。
初めてのローチョコレート体験。
「甘くなくていいね。かといって、苦くもなくていいね。でも…」
『でも…?』
「決して旨からずだね…(笑)」
砂糖・乳製品不使用のチョコレートは一言でいうなら「大人の味」。
大人の味とはいってもポリフェノールの味が強烈だった。
よく分からない人のために表現を変えると、
食べる赤ワイン(しかもフルボディ)
といった風味だった。
ほろにがあますっぱい
間違っても手放しで「美味しい!」と喜べるような出来ではなかったが、
それが2人で確認できただけでも素晴らしい第1歩が踏み出せたような気がした。
「体に良いと分かってても、人は美味しくなければ食べ続けられないよ」
「素材も高いし、それなりの値段をつけるなら<体にいい>ってだけじゃ人は買わない」
何度も作り直している中で「自営業」までは考えていなかった妹も、
次第に「売る」ことを視野に入れながら創作活動をするようになっていった。
もちろん、会社員を辞め自営業になると決意した際には、
私が知っているだけのビジネスのノウハウは全て提供するつもりでいた。
12月になる頃、いよいよ妹は「退職」の方向で考えるようになった。
「どうしたら教室とかできるようになるの?私なんかにお客さん集まるの?」
人は、自分に投資しだすと、ある一定の金額を超えた際に必ず「回収」を考えるようになる。
妹の場合は私と違い、ビジネス塾やスクール、情報商材と言うわけではなかったが、
道具や製菓材料につぎ込んだお金と時間を意識するようになっていった。
いわば、これは妹にとっての「自己投資」ってやつだったからね。
それから、私以外の「初めてローチョコレート体験者」の感想をどんどん集め、
製品に反映していき、味だけではなく香りや口どけ、初めて口にする天然甘味料の風味、満腹度などのリアルな声を集めていった。
試行錯誤している中、
私の入っていたビジネス塾の仲間が「ローチョコレート教室」を東京で開催することになった。
妹にもそれを伝えると
『彼女にも会いたいし…行ってみる!』
と教室参加を決意し、東京へ。
当時の彼女と妹の対談動画は今でもYouTubeに…残っていた。
東京から戻ってきた妹は彼女の魅力に感化され、
『自分もあんな人になりたい!』と意気込んでいた。
(綺麗な人はいつの時代も男女問わず影響力が大きいようですw)
妹『自宅で教室が出来るようになったりすれば、子供のこともムリせずにお金を稼ぐことが出来るよね…』
私「まぁ、そうだろうね。私見てれば分かるじゃん」
妹『だよね。あのさ…出世払いになるけどさ…色々、教えてくんない?自分で仕事を作る方法!』
当然私は「待ってました!」とばかりに2つ返事で
「ほな、倍にして返してや?(笑)」
と妹を本格的にプロデュースすることとなった。
続く…
ストーリーをお読みいただき、ありがとうございます。ご覧いただいているサイト「STORYS.JP」は、誰もが自分らしいストーリーを歩めるきっかけ作りを目指しています。もし今のあなたが人生でうまくいかないことがあれば、STORYS.JP編集部に相談してみませんか? 次のバナーから人生相談を無料でお申し込みいただけます。
あなたの親御さんの人生を雑誌にしませんか?
著者の渡邊 真紀さんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます