介護を現実のものとして考えていく【その九・見学】
施設見学。
通称「特養」と呼ばれる特別養護老人ホーム。
一か所目は義母、義兄、妻、そして義理の息子に当たる私の4人で訪れた。
自宅からも近いため、様子を見に行くには都合の良い場所だった。
ただ、そうなってしまうと義母は毎日のように頻繁に顔を出してしまうのではないかいう懸念があった。
夫婦だから当たり前のことなのかもしれないが、それでも毎日のように通うとなれば母への負担は自然と重いものとなる。
実際病院へ見舞い通いをしていた時に、目眩のような状態に陥ったことがあったのだ。
子供の立場ではそういった事態が起きてしまうことが一番の悩みのタネである。
ひとまず特養とはどんな場所なのかということを確認した上で、後日二ヶ所目の施設を訪れた。
そこは海沿いに立ち並ぶ施設で、家から通うのはなかなか大変な場所だ。
義母が毎日のように通い詰めることはまずありえない。
それと施設の状態やスタッフの雰囲気も最初の見学施設よりは良い感触があった。
子供3人の中では、預けるならばここがよいのではないかという考えが出来上がりつつあった。
ただ、この施設を見学する際に義母は同行していなかった。
もし決めるのであれば、日を改めて義母を連れてくる必要がある。
だが義母がその施設を訪れることはなかった。
一度目の施設見学の段階でなのか、むしろそれ以前からだったのかは定かではないが、義母の中にはどうしても譲れない思いがあったようだ。
しかし、我々が義母の体のことを第一に考えて色々動いているということも充分理解していたため、その思いを口にすることに対して心の葛藤に苛まれていたことが後にわかることとなる。
ある日、義母はソーシャルワーカーと二人きりで話す機会を作っていた。
そこで思いの丈をぶつけていたのだ。
子供には正面切って言えなかった「本音」を。
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