介護を現実のものとして考えていく【その八・転院】

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その場には立ち会えなかったのでいささか不明な部分もあるが、リハビリ対応をする病院のベッドに空きができたという連絡がソーシャルワーカーから義母のところに入ったらしい。


この時義母から相談の電話が一本でもあれば色々検討することもできた。


しかし、義母は転院の話を即断即決した。


そのこと事態に大きな問題があったわけではないが、今の病院でギリギリまで時間をかけて検査をしてもらうなり経過を診てもらうという手もあるのではないかと私は考えていたのだ。


だがソーシャルワーカーからリハビリ対応の病院はなかなか空きがないと言われていたことが、即決した理由につながったのだとも推測できる。


経緯はどうあれ転院が決まってしまった以上動くしかない。


転院先は車で20分ぐらいのところにあるが、義父はまだ自分の足で順調に歩けるような状態ではない。院内では時に車椅子も使用している。


そこで移動手段には介護タクシーを利用することにした。


リフトで車椅子ごと乗車しそのままシートベルトを掛けるだけで済むという強者。


義母と私も同乗できるだけのゆったりとしたスペース。非常に快適な空間だった。


ただその分お値段は…5000円ほどだったかと。まぁこれは想定の範囲内だ。


車とはいえ、義父にとっては実に1ヶ月半ぶりの外出になる。


そして移動の経路は義父が見慣れているはずの風景だ。


途中で路地に入ればそこには家がある。それぐらい慣れ親しんだ道のりだった。


だが、その日の義父は慣れない車椅子での移動に気を取られていたのだろう。家の近くを通ったことに気づいていなかったようだ。


もし転院先の次が特別養護老人ホームということになれば、そうそう帰ることができないかもしれない自分の家。


一瞬で通り過ぎる。


転院先に到着し、ドライバーさんの介助を借りながら院内へ入った。


義母とともに転院の手続きをしようとした矢先のこと。義父はトイレに行きたいと主張した。


そこで手続きは私が行うこととし、義母がトイレ介助という形をとった。


車に揺られたことで眠っていた内臓が活性化したのかもしれない。


手続きを無事済ませいざ病室へ向かう。


ベッドに空きがあるといっても当面は個室になると事前に聞かされていた。様子見ということもあるのだろう。


ところが義父に与えられた個室は「これは本当に個室なのか?」と言いたくなるような部屋だった。


本来なら大部屋で使う部屋にベッドが一つだけあるという感じだったのだ。そしてトイレもない。


トイレは部屋から一番遠い廊下の奥にある。


冷蔵庫も全患者の共同使用というシステムで、廊下の突き当りにある「談話室」と銘打たれた小さなスペースに置かれたものが一台だけ。


転院先は古くからある病院なので至る所に老朽化が目立っている。それに廊下の幅もかなり狭い。


ベッドの昇降も電動ではなく手動のハンドル式だった。


これならば正直転院前の病院の方がはるかに設備が整っていた。しかし、今さら戻ることはできなかった。


リハビリという前提があるため病院に居られる期限は2ヶ月。


各種事務手続きがあることを踏まえると、実際には1ヶ月半で次の段取りを整えなければ間に合わない。


病院の現状をどうこう言う時間があるならば、施設見学を早めに行いその先を考えろ。


誰かにそう言われているような気がした。


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