編み物はゲームでありスポーツであり麻薬であり

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著者: Kanai Yoko

 私は編み物が大好きなのですが、それを人にいうことをいつもなんとなく躊躇してしまいます。

なぜなら人は「編み物が好きです」というと、すぐさま思い描く人物像や性格があるようだから。

いわく「家庭的」「癒し系女子」「インドアタイプ」「ほっこり系女子」「主婦の鑑(かがみ)」

また作った作品に対しては「手づくりの温かみを大切にしている」「心がこもっている」

さらに編み物をすることに対しては「子どものことを考えている」「子どもの教育にいい」「えら

い」「すごい」

 編み物が好きだけど、なんとなく人にいうのを躊躇してしまうのはそこ。

全く違う自分像。「手づくりの温かみを大切に」ってなんだそれ。思ったこともない。

 私はなぜ編み物をするのか。理由はただ一つ。「編みたいから」

よく言うじゃないですか、登山が好きな人は、なぜ山に登るかというと「そこに山があるから」って。

それと同じ。糸があれば、それをからませて面にしたい。立体にしたい。形にしたい。それ、それよ。

歌が好きな人は歌を歌うし、絵を描くことが好きな人は絵を描く。お酒が好きな人はお酒を飲む。

それと同じ。

先日、息子(中1)の野球チームの保護者懇親会があった。しばしの歓談の後、順番に自己紹介することになった。私の数人前のパパたちが「趣味は〇〇です」というので、私もまねして「趣味は編み物です」といったところ、そこにいたお母さんたちから「かわい~」と声があがった。正直びっくり!

 趣味が編み物ってかわいい?やっぱり何か違う風にとられている。

私が編み物をする気持ちに一番近いものはゲーム。もちろんアナログのゲームじゃないですよ。ゲームと言えばゲーム。ピコピコする方です。

ゲームって最初は簡単でもだんだん難しくなっていく。そこを切り抜けて1面クリアするとうれしい。

少し強くなって次へ進んで、ダメになっちゃったり何度もチャレンジして最終ステージに進み、全クリすると達成感に包まれますね。

私が編み物をしながら考えているのはまさにそんなことです。

一つの作品を編むとき、簡単な部分もあればすごく厄介な部分もある。難解で頭を悩ませることもあるし、うまくいかず途中であきらめることもある。頑張って最初の難しいところを切り抜けると「よし、1面クリア」と心の中でつぶやいています。しばらくさくさく編めているときは、ドラクエで勇者がテクテク歩いている気分。その後再び第2の関門にぶつかり、糸が絡まったり足りなくなったり、編み方がわからなくなったりと様々な障害にぶつかりつつ、そこを乗り越えると「2面クリア」。さらなるステージへ。徐々に出来上がりの形が見えてくる。「ゴールはもうすぐだ!」

全てのパーツを編み終え、つなぎ合わせて完成したあかつきには「やった!全クリ‼」と心からの叫びと達成感でしばし恍惚となる。私にとって、それが編み物です。

何かを編むときは、常にアグレッシブな姿勢です。「編む」というより「編んでやる」「完成してみせる」という、ある意味、記録に臨むアスリートの気分です。

 私はもともと運動が大好きで「体育だけは安定して常に成績がいい子」だったのですが

50m走のタイムを計るときの、あのアドレナリンが出まくる感じ、

それがまさに編み物を編んでるときの気持ちです。

つまり、他人が編み物をしている人をみて

「椅子に座って穏やかな様子で指を動かして編み物をしている」と捉える映像は

糸と果敢に格闘し、汗水たらし、勝利(完成)を目指すアスリートの姿なのです!

 そうはいっても「あんな細かいことをするなんて、スポーツとは違うよ」という人はいるかもしれません。ここで少しだけ編み物について言及すると、編み物は

確かに細かいことです。そして私は細かいことが好きです。しかしそこはほら、糸だから。

ちょっと小さいな、形がいびつだな、と思えば引っぱっちゃえばいいんです!強引に!逆に言えば

本当に神経質で、わずかなずれが気になる人は編み物に向いていません。一番向いているのは「細かいことが好きな大雑把な人」そう、そういう人がはまるのが編み物なのです。

人は面倒なことを嫌います。そのためにいろいろなものが便利になるように改良されていくわけです。

それを言ったら編み物なんて、全く形のないところから糸を編んでいくわけですから面倒の極致。我ながらなんでこんな面倒なことが好きなんだろう?と思うことも少なからず。

それでも全く飽きることなく、いや、次から次へと糸と格闘したくなるこの気持ちは、

自分でも「編み物とは麻薬か?私は麻薬中毒者か?」と本気で思う。

若いころ、母に「そんな‘根をつめると体によくないよ」と言われましたが

‘根をつめる’の大好き!‘根をつめる’っていう言葉はあんまりよくないよと否定的にとらえるられることが普通だと思いますが、いや~好きです、根詰め!

そうなんです、編み物って、どこか根性論がぴったりくる。「塵も積もれば山となる」という諺あがありますが、一目一目編んでいくとやがて着るものや使うものになっていく。う~んど根性だ!

編み物とはゲームに似ていて、スポーにも近くて

麻薬のようなものであることを理解していただけたでしょうか?

そしてそんな「編み物」にはまることは「癒し系女子」でも「ふんわり系」でもなく

常に戦いに挑むチャレンジャーであることを周知していただけると、この先、生生きやすいです。













































































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