口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ⑫ 狂気の関係 編

著者: 健二 井出

「ナンバー1を維持し続けないと逆にカッコ悪い」



そんな問題に追い打ちをかける様に、

その後のYの束縛は、

さらに激しくなっていった。


何百万も使わせてしまったという後ろめたさもあり、

余計に私は我慢を重ねるようになっていた。


思い出すのもつらい、

我慢の日々だった。


その頃には完全にYも異常な状態になっていた。


徐々に、

束縛とも言えない様な事も増えていった……。


酔っ払って酩酊状態で帰宅した状態で…


売上に関して怒鳴られたり、

掃除機のホースで叩かれたり、

眠いのに犬の散歩を強要させられたり、

床の掃除をさせられたり、

あげくのはてには、

店でYが使った300万円の借用書を書かされたり……。


物を投げる時もあった。

今でも思い出すと恐怖なのが、

包丁を持ち出された事だ。


喧嘩になって、

家を飛び出そうとした時に

玄関で靴を履こうとしゃがんで、

手を置いていた位置の近くの床に、

包丁を突きさされた事があった。


そんな漫画みたいな事が自分の身に起こるとは思いもしなかった。


それ以降しばらくの何年かの間、

先端が尖っているものを自分に向けられると

恐怖を覚えてしまう時期もあった。

鉛筆やボールペンなどでもだ……。


女性経験が少なく、

無知な私は、おかしくなりそうな状況に追い込まれていった・・・。


しかし、そんな状況ながらも、

半期だけ売上がいいという事では恰好がつかない、

というのはYの方がわかっていたのかもしれない。


その月の後期も結局Yがまた100万円程使い、

他のお客さんの売上と合わせて、

ギリギリ私はナンバーに入った。


Yにお金を使わせているのも情けなかったし

自分の私生活も情けなかった。


Yに、店でお金を使ってもらった事も、

後の事を考えると恐怖でしか無かった。


いつまでこんな日々が続くのだろうと思っていた。



終わらせるには自分しかないのに……。

その別れるという言葉を、

何百万も使わせたという事実が…


言えなくしていた。



少しYの事を書くと……


Yはバツイチであった。

元旦那も元ホスト。

ただ、Yと結婚した時には、もう元旦那は自分で店を何店舗か持っており、

経営側にまわっていた様だ。


その元旦那の時の付き合いか、

他店のホストの役職の人なども、

Yの事を知っている人は何人かいた。


Yと私が出会った時は、

たまたまヘルスから出てきた所をキャッチしたが、

その時は、昔の知り合いの店長に、

「保証つけるから!」

と頼み込まれて、

たまたま出勤していただけだと言っていた。


(保証とは、出勤してお客さんに付かなかったとしても、

5万円なら5万円の日当を保証してくれるという事)


私と付き合っていた期間はほとんど風俗の仕事はしていなかった。


Yいわく、普段はお客さんからお金を貰っていたようだ。


一度、

Yのお客さんが家の前まで後を付けてきて、玄関先で何時間かいた時は、

恐怖を覚えた事もあった。


Yの才能だったのか、Mなお客さんを何人か抱えており

強気なYに、お客さん達は何も言えなかった様に感じた。

それが、M気質のお客さんにはちょうど良かったのかもしれない。

私には理解できないが・・・




Yは家庭環境が複雑そうだった。

気の強さは育ちから来ていたのか……。


高校の時の写真を見せてもらったときは、

ロングスカートでガンを飛ばす様な、

なかなかのさわやかな青春を感じさせる写真だった。


昔吸っていた、シ○ナーの影響で

雨が降りそうになると、たまに頭が痛くなると言っていた……。



私は吸った事はないのでわかりませんが……。


ヤ○ザの人とも知り合いが居る様な事をほのめかしていたし、

実際、ほとんど敬語を使う時などないYが、

珍しく電話で敬語を喋っているのを聞いた事はある。

Yの話す内容から、そっち系の人かな…


という雰囲気を感じた事もあった。



今となっては、

何が本当で何が嘘だったのかは確かめようもない。

全てが嘘でもおかしくないし、
全てが本当でもおかしくない。

そういった、現実と理想。

真実と嘘の境界線が曖昧なのが

ネオンの世界だったのだろう……。


だが……

嘘だとしても、本当だとしても、

その世界にいる間は、

それ程重要な事でもなかったのかもしれない……




そういった背景も含めて、

何百万も使わせた……

借用書も書かされた……(今となっては効果がない事はわかるのだが…)

怖い人の知り合いもいそう……


という複合的な理由で、別れを切り出せないでいた。


それどころか、

その頃はまだ結婚しようとすら思っていたのだから………。


それがその頃の自分にとっては、

ケジメだと思っていたのだろう。


あるいは……

別れるという選択肢がない状況の中で……

別れる以外の方法で、

その狂気から逃れる為の唯一の方法が、


結婚という考えだったのかもしれない………



著者の健二 井出さんに人生相談を申込む